小惑星探査機「はやぶさ」に搭載されたマイクロ波放電式イオンエンジンμ10は、推進剤の供給方法に工夫を凝らすことでエンジンの推力の指標であるイオンビーム電流が25%向上に成功した。イオンエンジンの推力増強のプロセスを解明するために、光ファイバを用いて内部の発分布測定を行い、導波管内部における発光を確認した。光ファイバは従来のプローブ診断に比べ以下のメリットがある。 (1)英は非誘電体ため、マイクロ波電磁場に対する擾乱が小さい。 (2)絶縁体のため高電圧に印加されたプラズマにもアクセル出来る。 (3)融点が高温のプラズマにも耐えられる。 (4)イオンエンジンのグリッドから挿入することで、非破壊で"その場"測定が可能。 (5)加速中における唯一の直接計測手法である。 内部発光実験では、導派管部における発光量に比例してマイクロ波反射電力が増大していることがわかった。導波管におけるプラズマの存在は放電室に供給されるマイクロ波が減少させ、イオンビーム電流が減少する原因となるため、これを抑制することでビーム電流が増加したと考えられる。 より定量的なプラズマ診断を行うため、イオンエンジン内部に光ファイバを用いてレーザー吸収分光法を適用した。本実験に取り組むに当たり、予め分光器を通じて内部発光のスペクトル分析を行い、Xe中性粒子の準安定準位である823nmに強い発光があることを確認した。 本実験の計測方法は、光ファイバをグリッドを通じてレーザー光を内部まで誘導し、イオンエンジンの長手軸方向に沿ったレーザー透過長を変化させることで、ターゲットの数密度分布をイオンビーム加速状態のまま計測できる新しい手法である。見積もられるXeイオンの数密度は中性粒子に比べ小さく実績がないことから、第一に計測方法の実証として、中性粒子であるXe(I)823nmをターゲットとして数密度分布をもとめ、実験に成功した。
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