研究課題/領域番号 |
10J05571
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
月崎 竜童 東京大学, 大学院・工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | イオンエンジン / 吸収分光 / 光ファイバ / プラズマ / マイクロ波 / はやぶさ |
研究概要 |
マイクロは放電式イオンエンジンμ10の内部物理を解明するために、光ファイバを用いてレーザ吸収分光法の適用を行った。本年は研究計画の2年にあたり、前年度に吸収の取得に成功したXe I 823nmの準安定中性粒子の数密度分布を詳細に求めることに成功した。マイクロ波プラズマ源の内部診断手法を確立した成果はアメリカ物理学会のの査読付き論文Review of Scientific Instrumentsに掲載されるなどの業績をあげている。 Xe I 823nmは準安定で寿命が長くマイクロ波放電式イオンエンジンμ10の導波管部分にまで、導波管からの推進剤流量が高い時に確認された。これはイオンビームの低下と共にこの領域における数密度の増加が確認されたことから、導波管における電子密度の上昇が考えられる。導波管における電子密度は放電室部分へのマイクロ波供給を阻害したり減衰させてしまう恐れがあるため、避けるべきである。導波管側からの推進剤流量を減らし、放電室からの推進剤流量を増やすことで、この導波管における電子密度を減少させて、イオンビームの増加に貢献したと推察される。 また発光分光による相対強度法によって、電子励起温度の測定も行った。従来は熱平衡から電子温度を用いていたが、マイクロ波プラズマは非平衡状態にあるため、電子励起温度の方が実態に沿っている。この測定結果より中性粒子密度分布は従来よりも一桁低いことが判明した。 上記の結果を、現在日本航空宇宙学会和文論文集に投稿中である。引き続き、他のラインの吸収分光を実施してより詳細なエンジン内部のプラズマ診断を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画では、レーザ吸収分光によりXeイオンの吸収を測定するはずであったが、イオンの吸収の測定には未だ成功していない。しかし、イオンの吸収波長の選定過程で発光分光を行い、相対強度法により電子励起温度を求め、吸収分光によって得られる数密度が電子温度を用いた時よりも一桁低いことを解明した。イオンの吸収は見積りよりも実際にはかなり少ないものの、代わりに基底と共鳴遷移線を有する励起中性粒子Xe I 828nmの吸収を測定することに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
実験成功がより難しいとされるXeイオンよりも、まずは吸収が確認されたXe I 828nmの数密度分布を正確に求めることに注力する。具体的には、ロックインアンプの使用や、光学測定系においてAPC研磨などの超低反射特性に有するものに順次切り替えるなどの試行錯誤を行い、SN比を限りなく向上させる。その上で、波長484nmのXeイオンの吸収分光に挑戦する。
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