本研究では、海綿動物に埋在する二枚貝(ホウオウガイ・ヤブサメガイ)とそのホストとなる海綿の共生関係の解明を目的としている。本年度はまずそのカイメンに埋まるという形質がどのような進化的経路で獲得されたのかを明らかにするために生息場所の進化に特に注目してウグイスガイ上科二枚貝の分子系統解析を行った。その結果、ウグイスガイ上科二枚貝の祖先形質は岩盤付着性で、刺胞動物への進出は1回、カイメン動物への進出は1回あるいは2回起こったと示唆された。これらの結果は地理的隔離の起こりにくい海洋での生物の多様化には生息基盤が重要な役割を果たしていることを示唆する例として重要である。 また、本年度は積極的に野外調査地に赴き、対象となる二枚貝およびカイメンの採集と生態調査を行った。具体的には沖縄本島でカイメンのコロニーごとホウオウガイを隔月採集し、カイメンのバイオマスあたりの個体群密度、および殻のサイズ分布を調べ、定着時期の推定を行った。その結果、ホウオウガイの個体群密度は非常にばらつきがあるものの周年高く維持されており、カイメン内のホウオウガイ密度はどのコロニーでも頭打ちになっていることが示唆された。また、殻のサイズ分布からはホウオウガイのカイメンコロニーへの新規加入は夏ごろをピークに起こることが明らかになった。また、繁殖サイクルも調べるために、各サンプリングでホウオウガイ50個体ずつ、生殖腺を観察し、雌雄判別を行った。その結果、沖縄の個体群は周年性成熟しておらず、多くの個体は春ごろから性成熟をはじめ、夏に向かうにしたがい雌比率が増加していた。また、個体の平均サイズはオスよりもメスのサイズの方が大きかったことから、ホウオウガイは雄性先熟であると推定された。
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