研究課題/領域番号 |
10J05594
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
椿 玲未 京都大学, 人間・環境学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 共生 / 二枚貝 / カイメン |
研究概要 |
海洋では、無脊椎動物が他の無脊椎動物と密接な関係を結びながら生活する共生関係が卓越しているが、その共生関係の実態はおろか、共生生物の基本的な生態すら未だほとんど明らかになっていない。そこで平成23年度は、カイメンに埋在するホウオウガイ(シュモクガイ科二枚貝)を対象に、基本的生態の解明とカイメンとの共生関係の実態の把握を目標として研究を行った。具体的にはまず、沖縄本島羽地内海において実施した1年間の野外調査データをもとに、生存曲線や繁殖生態など基本的な生態を調べた。結果、(1)ホウオウガイは非常に寄主特異性が高く、ただ1種のカイメンのみをホストとして利用しており、(2)新規加入は年に一回8月ごろに起き、(3)雄性先熟の性決定様式を持ち、(4)夏ごろに最も死亡率が高まり、(5)若い個体の死亡率が非常に高く、(6)個体群の中心は年間を通じて若い小さな個体によって占められていることを明らかにした。若い個体の死亡率が非常に高い環境下では、雄性先熟が有利であったと考えられる。この研究成果は既にZoological Science誌に掲載が決定している。 上記の研究に加え、ホウオウガイとカイメンの共生関係の実態を把握すべく、Spongia sp.がホウオウガイと共生することでどのようなメリットを得ているかを検討する実験も行った。カイメン・ホウオウガイ共に濾過摂食者であるため、摂食のためには常に体内に海水を採り込まねばならない。そこで私はカイメンがホウオウガイの起こす水流を利用して体内の海水循環を効率的に行っているのではないかと考え、海水の挙動を調べた。その結果、海水はホウオウガイの体内を通った後、カイメン体内を通って外部に排出されていることが明らかになった。このことはホウオウガイとSpongia sp.が、互いの起こす水流を相補的に利用することにより、互いの水循環を効率化させている可能性を示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
カイメン・二枚貝の成長や繁殖時期については、当初は定期的なモニタリングを行うことにより明らかにするつもりであったが、野外個体の標識・追跡が著しく困難であったため、定期的にサンプリングを行い、実験室での解剖・計測などを行う方法へと切り替えたため、得られるデータには限りがあったが、カイメン埋在性二枚貝の生活史の大部分を明らかにすることが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までの研究から、カイメン埋在性二枚貝の系統、そして基本的な生活史を明らかにすることが出来たので、今後はそれらの知見を活かしながら、カイメン埋在性が付着性二枚貝の進化・生態にどのような影響をもたらしているのかを明らかにしたい。具体的には、カイメン埋在性の2種の二枚貝(ホウオウガイ・ヤブサメガイ)について、ホストであるカイメンとどのような相互作用を持つのかを実験的に調べていく予定である。
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