海には岩盤などの基盤上に固着して生活する濾過食性の生物が数多く見られるが、刺胞動物や海綿動物などの固着生物の体表上に付着して生活する濾過食性生物も多く、ウグイスガイ上科二枚貝はその代表である。付着寄主となる生物にとって付着者は餌となるプランクトンを巡る競争者である一方で、防衛や構造補強などに貢献する可能性があり、両者の関係は複雑かつ多様である。私はこれまで、ウグイスガイ上科二枚貝における固着生物への付着生活がいつどのように起源し、付着寄主との間にどのような関係が形作られていったのかを明らかにしようとしてきた。本年度は、カイメンと共生するウグイスガイ上科の1種であるホウオウガイを対象に、その共生関係の実態を解明することを目標とした。ホウオウガイはカイメンと共生することによって、捕食者からの攻撃を免れるという明らかなメリットがあると考えられるが、カイメンにとってのメリットが不明瞭であったため、カイメンがこの共生関係から何らかのメリットを得ているのかという点に着目し、研究を行った。その結果、ホウオウガイは濾過済みの海水を海綿の体内に排水し、海綿はその強い水流を利用して体内の水循環を効率的に行っていることが明らかとなった。このことは、ホウオウガイとカイメンの共生関係はホウオウガイが捕食者から守られるというだけの片利的な共生関係ではなく、カイメンもホウオウガイの生み出す水流を介して利益を得る相利的な関係だということを強く示唆している。この研究成果は、海の共生関係においてこれまで軽視されて来た水流という要素に着目し、その重要性を指摘したと言う点で非常に重要である。
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