研究課題/領域番号 |
10J05605
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
渡邉 亮太 慶應義塾大学, 大学院・理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | BCS-BECクロスオーバー / Fermi原子系超流動 / 擬ギャップ |
研究概要 |
フェルミ原子気体のBCS-BECクロスオーバーにおける原子の強結合性と擬ギャップ現象の関連について理解するために、当該年度は1.熱力学量の解析、2.2次元原子気体の強結合効果について計算し、議論した。 1.当該分野で盛んに議論されている、BCS-BECクロスオーバーにおけるフェルミ原子気体の熱力学量について議論した。昨年議論した、圧力などの熱力学量には擬ギャップ現象の特徴が現れにくい。一方、光電子分光型測定の実験結果には明確な擬ギャップ構造が現れているため何らかの熱力学量にはその形跡が現れることが期待される。そこで私は、原子の強結合効果の影響を強く受けると考えられるスピン帯磁率の温度、相互作用依存性を一様系において解析した。その結果、スピン帯磁率は超流動転移温度近傍および強結合領域で強く抑制されることが分かった。また、この効果によって、スピン帯磁率の温度依存性は常流動相においてピークを持つことを示した。さらに、このピークを与える温度を擬ギャップ温度とみなしたとき、状態密度やスペクトル強度から判断される擬ギャップ温度よりも高温であることがわかり、当現象の新たな指標として期待される。一方、強結合領域において、スピン帯磁率に非物理的な振る舞いが見つかった。これに対し、現在、近似を向上させるなど、改善のための議論を行っている。 2.擬ギャップ現象は原子の強結合性から生じる超流動揺らぎの影響に起因する。そのため、揺らぎの影響が強くなる2次元系では、より顕著な擬ギャップ的現象が生じるものと期待される。私は2次元一様系フェルミ原子気体における状態密度とスペクトル強度の温度依存性を解析し、2次元性が擬ギャップ的振る舞いにどのように影響を与えるかを議論した。その結果、フェルミ原子気体としての特徴的な温度スケールであるフェルミ温度や平均場理論による超流動転移温度よりも高温の領域においてもなお、擬ギャップ的な影響が現れていることを示した。現在、このような高温領域における揺らぎの影響がどのように生じているか、また、トラップ系の実験結果との比較を行うため、議論を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
国内外の実験、理論の発展状況に鑑み、T-行列近似を用いて実験結果の解析、より詳細な議論に注力しており、当初計画していた自己無撞着T-行列理論を用いた解析を行う以上に、本系の理解に貢献している。また、トラップ系の研究については、当初計画していた3次元系の研究のみならず、2次元系の解析も進められる見込みである。
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今後の研究の推進方策 |
1.熱力学量の解析に関しては、スピン帯磁率の計算を中心に行う予定である。まず、強結合領域に現れる非物理的な振る舞いについて議論し、改善する。そして、トラップ系におけるスピン帯磁率の空間依存性を計算し、擬ギャップ問題の理解に努める。 2.2次元フェルミ原子気体の解析については、まず、一様系の高温領域における擬ギャップ現象の起源について理解を深める。そして、トラップ系の光電子分光型測定の実験結果の解析を行い、高温領域の擬ギャップ的振る舞いがどのような影響を与えているかを議論する。
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