線虫C.elegansが示す温度走性行動を指標として、記憶形成に関わる分子および神経基盤を解明することを目的に、線虫を用いた分子遺伝学的解析を行った。これまでに、本研究から、動物の記憶形成に重要なCREBのオルソログCRH-1が温度走性行動に重要な役割を果たしている可能性が示された。crh-1を欠損した変異体は温度走性において顕著な異常を示し、また、この変異体の各ニューロンで個別にcrh-1遺伝子を発現させると、温度受容ニューロンAFDで発現させた場合のみ、変異体が示す行動異常が回復した。また、カルシウムイメージングにおいて、AFDの飼育温度に依存した反応を観察した結果、crh-1変異体では、この反応に異常が見られた。これらの結果から、AFDニューロンがCRH-1に依存した温度記憶を保持している可能性が示唆された。本研究は、単一細胞が担う記憶のメカニズムを分子遺伝学的に解明するための手がかりとなると期待される。
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