研究課題/領域番号 |
10J05640
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
吉田 和史 東京大学, 大学院・理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 線虫 / 行動 / 神経回路 / イメージング / 嗅覚 |
研究概要 |
申請者は以前から、神経回路メカニズムの解析に適したモデル生物線虫c.elegansを用いて「匂いの濃度に依存して感じ方が変化する」現象の解析を行なってきた。昨年度までに申請者は、線虫も哺乳類と同様に、匂いに対してその濃度が変化すると行動を変化させることを見出し、ある匂いに対して低濃度と高濃度のときでは重要な感覚神経の種類が異なることを明らかにしていた。さらに、これらの感覚神経がある匂いに対してどのような応答を示すのかをin vivoカルシウムイメージングにより測定したところ、低濃度の匂いへの行動に重要な感覚神経が、低濃度の匂い刺激には応答するが、高濃度刺激には応答しないことを明らかにした。該当年度に申請者は、シナプス伝達が阻害されている変異体で同様にカルシウムイメージングを行うことで、この感覚神経が高濃度の匂い刺激にも応答することを見出した。このことは、高濃度の匂い刺激の際、この感覚神経が他の神経からの抑制を受けることで応答しなくなること示唆しており、本研究で明らかとなった「匂いの濃度情報が感覚神経レベルで処理されていること」は嗅覚系の情報処理メカニズムに新規知見をもたらした。また、申請者は以前に、匂いの濃度に依存した行動の変化に異常を示す分子とその機能神経細胞を同定していたので、該当年度に、その変異体においても匂い刺激に対する神経応答をカルシウムイメージングで測定した。その結果、野生型線虫の感覚神経で低濃度、高濃度匂い刺激により観察されていた特徴的な神経応答が、その変異体においては消失した。このことは、申請者が提唱していた「匂いの濃度によって異なるグループの感覚神経が重要である」ことを支持するものであり、この研究成果により提唱したモデルがより信憑性の高いものとなった。研究実施計画も順調に進んでおり、これまでの研究成果がNatureの姉妹誌「Nature Communications」に掲載され、高く評価された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
着目している嗅覚系の現象の神経回路メカニズムを明らかにし、その研究成果がNatureの姉妹誌「Nature Communications」に掲載されたため。
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今後の研究の推進方策 |
今後も、申請時の研究実施計画に基づき研究を遂行する。
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