研究課題/領域番号 |
10J05650
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
平野 明日香 (鈴木 明日香) 独立行政法人理化学研究所, 視床発生研究チーム, 特別研究員(PD)
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キーワード | 視床上部 / 発生生物学 / 進化 / マウス / ニワトリ / 松果体 / 遺伝子 / 種間比較 |
研究概要 |
発生初期の遺伝子発現の違いが、脳の形態と機能の違いを作り出す鍵となるかどうかを解明するため、進化的に重要な意義を持つ視床上部で、脊椎動物間での比較研究を行っている。本年度では、進化的差異を生み出すキーとなる遺伝子を探すため、発生中に発現に差異の見られた候補遺伝子のうち、分泌性シグナル分子であるWnt8b、Fgf8について視床上部への遺伝子強制発現を行った。 Fgf8はマウスとニワトリ胚では同じ領域に発現するが、そのタイミングや発現の強さが異なっている。そこで、ニワトリ胚をshell less cultureし、Fgf8をニワトリ本来の発現が始まるよりも早い時期にエレクトロポレーション法を用いて強制発現した。その後ニワトリ松果体で発現する光受容体分子Isl1の発現を調べると、ほとんど影響は見られなかった。またWnt8bは、発生初期での発現パターンは相同であるにも関わらず、発生が進むにつれ、ニワトリ視床上部では強い発現が維持されるのに対し、マウスでの発現は消失する。そこで、マウス胚をexplant cultureし、視床上部にWnt8bを強制発現した。しかし、この系では領域マーカー遺伝子の正常な発現が見られなくなってしまうことが示された。 次に、松果体で野生型と同じメラトニン生成を示すCH3/HeJ系統と、視床上部でFgf8の発現が欠損しているASO71 KO系統のマウスについて、マウスとニワトリで差異の見られた遺伝子の発現パターンを調べた。すると、両系統のマウスにおいて、視床上部で物1動がニワトリと同様の発現パターンをしていることが示された。一方、松果体でのIsl1,Reelinの発現に変化は見られなかった。 そこで今年度は、これらのマウスをモデルとし、マウスとニワトリの視床上部での神経伝達物質の生成や神経投射パターンに注目して、種間の脳機能の違いに対する発生初期の遺伝子発現の影響を調べていきたいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ニワトリへ視床上部への遺伝子強制発現実験はshell less culture法を用いたことによって大分改善され、下流遺伝子の発現を調べることができた。しかし、マウスの遺伝子強制発現については、explant cultureを用いた方法では、実験系が上手く確立できないことが分かった。そこで代わりの系として、CH3/HeJ系統のマウスと、ASO71 KOマウスがそれぞれマウス視床上部での、Wnt8b発現モデル、Fgf8欠損モデルとして用いることとした。
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今後の研究の推進方策 |
マウス視床上部でのWnt8b発現モデル、Fgf8欠損モデルとしてCH3/HeJ系統のマウスと、ASO71 KOマウスを使い、今まで用いてきたICRマウスとこれらの系統のマウス、ニワトリについての比較検証を行う。視床上部からは松果体と手綱核が分化するが、これらのミュータントマウスでは、松果体の形成そのものには影響がみられない。そこで、松果体と手綱核での神経伝達物質の生成や神経投射のパターンに注目し、ICRマウス、これらのマウス、ニワトリでの比較を行い、発生初期の遺伝子発現の違いが生体の脳の機能獲得にどのような影響を与えるのかを調べていきたいと考えている。
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