研究概要 |
本研究は、固形腫瘍へのドラッグデリバリーの向上を視野に入れて、膵癌や胃癌への薬剤の送達を解析することを目的としている。腫瘍モデルは、臨床への応用を視野に入れて、臨床検体の組織型の特徴を有したものを作成することに取り組んだ。ヒト膵癌は、「間質が豊富で偽腺管構造を有する」という特徴を有しており、この構造を再現するために膵癌細胞とともに、膵臓由来の線維芽細胞を同時移植するという手法をとった。すると、同所移植・皮下移植ともに上記の特徴を有した癌モデルが作成された。この癌モデルへのドラッグデリバリーを解析するために、FITCでラベルされた数種類の高分子量のデキストランを用いた。高分子化合物は、EPR効果によって腫瘍に集積しやすいことが分かっているが、その中でもより集積しやすい形状やサイズの解明は、現在研究が進められているところである。異なる分子量のデキストランを投与後、腫瘍切片を作成したところ、さほど集積が見られなかったため、豊富な間質がバリアとなっていることが考えられ、in vitroで間質への薬剤の浸透性を評価できる実験系の考案に取り組んだ。ここで、大阪大学工学部明石研究室より2006年に発表されたlayer-by-layerの手法を基とした積層培養の方法(Matsusaki et al.,2007)が適していると考え、共同研究を組むこととした。この培養法は従来のディッシュ上における単層培養と比較して生物学的に生体内での状態に近いと報告されている。癌間質組織では、線維芽細胞が細胞外マトリックスを産生し層状に連なっているため、この培養法が有効であると考えられた。膵上皮内癌由来の線維芽細胞をカルチャーインサートの上に5層まで積層培養することに成功し、異なる分子量のデキストランの浸透性を調べたところ、分子量が大きいほど、また積層数が増えるほど浸透性が小さくなることが分かった。この結果は、積層培養が薬剤の浸透性を評価するのに有用であることを示している。
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