研究課題
本研究は、固形腫瘍へのドラッグデリバリーの向上を視野に入れて、固形難治癌への薬剤の送達を解析することを目的としている。前年度に「間質が豊富で偽腺管構造を有する」という特徴を有する膵癌の動物モデルを作成した。また、この癌モデルへのドラッグデリバリーを解析するために、in vitroで間質への薬剤の浸透性を評価できる実験系の考案に取り組んだ。これには、layer-by-layerの手法を基とした積層培養の方法を用い、層状に膵上皮内癌由来の線維芽細胞を積層させたモデルで、高分子量デキストランの浸透性を評価した。今年度はこの系での詳細な解析を行った。ここで、線維芽細胞の層が浸透性のバリアとなっていることが分かったため、局所的な治療効果を発揮できる抗癌剤内包温度感受性リボソームの癌への送達に取り組んだ。温度感受性リボソームは、42-45℃で内包した抗癌剤を放出するので、腫瘍組織のみに熱を与えることができれば局所的な抗癌作用を期待でき、従来の低分子量の抗癌剤と比較して副作用が軽減できると考えられる。腫瘍組織をターゲティングするモチーフとして、ファージに発現させたペプチドを用い、温熱の媒体として金ナノ粒子を用い、温熱源として近赤外レーザーエネルギーを用いた。金ナノ粒子・ファージ・リポソームの複合体をアガロースゲルに組み込み、近赤外レーザーを照射し、温度の変化と内包された抗癌剤の放出が見られるか検討した。すると、照射とともに、温度が上昇し始め、内包された抗癌剤の放出が観察された。この複合体をマウスに投与すると、腫瘍組織に多く集積する結果が得られ、レーザー光の照射による温度上昇も見られた。今後は、複合体の投与量やレーザーの出力量などのパラメーターを、腫瘍組織により有効で、かつ正常組織により非侵襲的になるように最適化を行いたいと考えている。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の計画では、EPR効果によるリポソームの癌への集積とそれによる癌細胞への殺作用を目的としていたが、癌ホーミングペプチドを発現したファージと組み合わせることにより、より効率良く、癌組織をターゲティングできるようになったため。
金ナノ粒子・ファージ・リポソームの複合体は、腫瘍組織に集積し、近赤外レーザーによって温度上昇が観察されたので、今後は、複合体の投与量やレーザーの出力量などのパラメーターを、腫瘍組織により有効で、かつ正常組織により非侵襲的になるように最適化を行う。
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Biochemical and Biophysical Research Communications
巻: 419 ページ: 32-37
10.1016/j.bbrc.2012.01.117