研究課題
自然免疫は細胞が病原体に特徴的な分子パターンを認識し排除する生体防御機構であり、進化的に高度に保存されている。近年の研究により自然免疫が、病原体の排除および獲得免疫の誘導に必須の役割を果たすことが明らかとなり、その分子機構の解明が期待されている。本研究では、DNAウイルス感染に対する生体防御機構のさらなる理解を目指して、ショウジョウバエ細胞および哺乳動物細胞を用いて抗ウイルス活性を持つ因子の探索を行った。昨年度に作製したDNAウイルスであるバキュロウイルスにLuciferase遺伝子を組み込んだレポーターウイルスを用いて、RNAiにより遺伝子発現を抑制した際に、レポーター遺伝子の発現を促進する因子を探した結果、ヒストンH3の9番目のリジン残基(H3K9)のメチル化酵素が複数同定された。同定されたH3K9メチル化酵素のsiRNAを処理したHela細胞においては、バキュロウイルスのレポーター遺伝子発現の著しい促進が確認された。昨年度の解析において、ヒトおよびショウジョウバエ細胞におけるウイルス遺伝子発現がヒストンアセチル化により抑制されることを示している。また、ウイルスDNAにヒストンが結合することおよびヒストンのアセチル化がウイルス遺伝子発現を抑制することが報告されている。これらと併せて今回H3K9のメチル化酵素が抗ウイルス因子として同定されたことで、ウイルスDNAに結合したヒストンのH3K9によるメチル化およびヒストンのアセチル化がウイルス遺伝子発現の抑制に関わることが示唆される。
3: やや遅れている
当初の予定通り、抗ウイルス活性をもつ因子のスクリーニングが完了したが、候補因子の機能解析がまだ十分ではないため。
今後はスクリーニングにより得られたヒストンH3メチル化酵素がウイルスの遺伝子発現を抑制する分子機構の解析を行う。具体的には、DNAウイルスゲノムに結合したヒストンがH3K9メチル化酵素によりメチル化されることをクロマチン免疫沈降法により確認する。さらに、H3K9メチル化酵素のウイルス感染時における細胞内局在および結合因子の探索を行い、なぜDNAウイルスゲノムに結合したヒストンがH3K9メチル化酵素のターゲットになるのかを明らかにする。
すべて 2011
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件)
Cellular and Molecular Life Science
巻: 68 ページ: 1157-1165
10.1007/s00018-010-0605-2
Cell
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