光親和性標識実験、および、LC-MS/MSを用いた質量分析実験によって、バンコマイシン耐性菌に有効であるリポグリコペプチドVan-M-02の標的分子と、それらの相互作用部位は明らかになっていた。これらの情報に基づき、Van-pbM-29(Van-M-02を化学修飾した光親和性プローブ)と作用標的であるPBP2(黄色ブドウ球菌由来ペニシリン結合性タンパク質)の相互作用を、計算化学を用いて予測した。その結果、PBP2のトランスペプチダーゼドメインの活性中心から約15Å離れた場所において、いくつかのPBP2のアミノ酸残基と水素結合を形成してPBP2とVan-pbM-29が相互作用する事が分かった。特に、アスパラギン酸489、および、リジン467とVan-pbM-29の光親和性官能基が水素結合を形成することで、Van-pbM-29の光親和性官能基が特定の方向へ固定化されることが分かった。この結果は、LC-MS/MSを用いた質量分析実験の結果とよく一致した。これにより、これまでX線結晶構造解析などによる解析が進んでいなかったリポグリコペプチドと作用標的の相互作用を、合成化学、生化学的手法によって可視化することができた。 バンコマイシンダイマーはバンコマイシン耐性菌に有効であるが、その作用機序はほとんど解明されていない。リポグリコペプチドの作用機序で用いた光親和性標識法をバンコマイシンダイマーにも応用した。その為に、光親和性標識プローブを合成することにした。光親和性官能基としてベンゾフェノンを用いた光親和性標識プローブを既知物から二段階で合成し、Van-pbD-06を得た。Van-pbD-06を用いて光親和性標識実験を行ったところ、プローブ特異的に標識化されるタンパク質のバンドを複数確認した。その内の一つはPBP2であることが予想された。それ以外のバンドでは、上記yan-pbM-29の光親和性標識実験で得られるバンドのパターンとは異なるため、リポグリコペプチドとバンコマイシンダイマーでは相互作用標的が異なることが示唆された。
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