研究概要 |
電子のスピン自由度をエレクトロニクスに組み込んだ「スピントロニクス」において、スピン流(角運動量の流れ)の果たす役割がますます重要になっている。物質を流れるスピン流は様々な形態で存在し、その形態の1つに磁気交換相互作用が駆動するスピンの流れ:超スピン流が存在することが理論的に示されている。超スピン流は従来より研究されてきた伝導電子スピン流(粒子拡散力が駆動するスピン流)と比較して損失のずっと少ない流れであり、それまで数ミクロン程度の距離までにしか流すことのできなかったスピン流の輸送能の限界を突破できる可能性があることから、世界中で超スピン流観測への機運が高まっている。このような中、前年度までに研究者は研究目的の1つであった絶縁体中を流れる超スピン流(スピン波スピン流)を初めて観測した(Kajiwara,et al.Nature,梶原,et al まてりあ)。今年度の研究の狙いの1つは、超スピン流と伝導電子スピン流とのスピン角運動量交換機構に関しての理論的定式化にある。この研究目的に沿って研究を遂行した結果、以下の研究成果を得た。 (1)パラメトリック励起によって誘起した超スピン流から伝導電子スピン流への角運動量交換現象をスピンポンピング法によって解析した。その結果、超スピン流のモードによって角運動量交換効率の大きさが顕著に変わることを見出した。特に、表面スピン波モードについてはバルクスピン波モードに比べて大きな交換効率を示すことを明らかにした(Kajiwara,et al.IEEE Transaction on Magnetics)。 (2)超スピン流による局在スピンへのスピントルク効果を実験的に実証した。温度勾配をつけた系において熱的に超スピン流を誘起すると、試料のエッジに存在する局在スピンに超スピン流が作用し局在スピンの磁化ダイナミクスが変調されることを見出した。この現象を利用することで、系の磁気特性を大きく変調できる可能性があることを示した(現在、論文執筆中)。例えば、熱的な磁化の反転やスピン自励発振現象(熱的なマイクロ波発振現象)の存在を示唆している。
|