私は昨年度までの研究で、NotchリガンドであるDelta-like 1 (Dll1)が接着分子としてマスト細胞の接着を促進することを発見した。Notchはシグナル分子としてのみ知られており、接着分子としての機能解明は細胞間のコミュニケーション、更には炎症部位への細胞集積機構の理解に重要である。 今年度、この発見に関して論文の執筆、投稿を行い、The Journal of lmmunology (2010;185:3905-3912)に掲載された。また、Notchによる細胞接着の性質の解明を目指し、以下の2つの疑問を研究した。 1.Dll1以外のNotchリガンドも接着分子として機能するか? NotchリガンドはDll1とJagの2つのファミリーが存在する。Jagの細胞接着への関与を検討するため、Jag2を安定導入した線維芽細胞(3T3-Jag2)へのマスト細胞の接着を、コントロール線維芽細胞(3T3-ctrl)と比較した。マスト細胞はOP9-DL1と同様、3T3-Jag2へより多く接着した。この接着亢進は、マスト細胞及び3T3細胞へのNotchシグナルが原因ではなく、Notch/Jag2結合の競合阻害でのみ阻害されたことから、Jag2もマスト細胞の接着分子として機能することが示唆された。 2.マスト細胞以外の免疫担当細胞の細胞接着にもNotchリガンドが関与するか? 活性化後Notchが発現上昇することが知られるT細胞の接着へのNotchの関与を、マスト細胞同様に検証した。ナイーブT細胞はOP9-DL1へより多く接着した。活性化T細胞では更に多くOP9-DL1へ接着した。T細胞及びOP9へのNotchシグナルは接着亢進の原因ではなく、Notch/Dll1の競合阻害時のみ接着亢進が阻害された。一方、3T3-Jag2では接着の亢進は見られなかった。よってT細胞においては、Dll1のみが接着分子として細胞接着を促進することが示唆された。現在、マスト細胞とT細胞の接着において、Dll1とJag2への反応性の違いを生じさせる機構を検討中である。
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