本年度は北極海研究を中心に行ったほか、珪質植物プランクトン粒子の沈降フラックスと海洋環境との関係に関する知見を国内誌に報告した。北極海観測点Station NAPt(北緯75度西経162度)では、2011年10月に係留したセディメントトラップを回収し、2年目となる2011年10月から1年間の沈降粒子分析(全沈降粒子フラックス、無機/有機炭素・窒素含有量および同位体比、珪藻・珪質鞭毛藻群集解析)を行った。11月下旬の全沈降粒子フラックスは、1年目(2010年10月一翌年9月)と同様に極大を示したことから、この海域における沈降粒子フラックスの季節性を表している可能性が高い。一方、夏の全沈降粒子フラックスは1年目よりも大幅に低く、年による変化が大きいことが伺える。有機・無機炭素、窒素の含有量や安定同位体比には2年間で大きな変化が見られなかった。珪藻・珪質鞭毛藻の沈降フラックスは、11月は前年と同様に極大が観測された。夏は沈降フラックスが前年の夏と異なり、2011年夏はチャクチ海陸棚北部に残った海氷下で発生した珪藻の増殖が反映されていたが、海氷面積が最小を記録した2012年夏は珪藻沈降フラックスが前年夏よりも大幅に減少した。また、尾虫類のハウスが2011年夏には多量に含まれており、海洋深層へ鉛直輸送される粒状有機物に対してハウスも重要な寄与をしていたが、翌年夏にはほとんど見られなかった。Station NAPtも影響下にある貧栄養なボーフォート循環は、海氷減少とともに近年強化されている。本研究では2年分のデータが得られたが、今後も進行すると予想される北極海の海氷減少に対して、Station NAPt付近では2012年のように夏季の珪藻生産と粒状有機物の沈降フラックスは減少し、初冬に陸棚側から輸送されてくる有機物が深層へ供給される粒状有機物の多くを占める可能性もある。
|