本研究は、高等生物と極めて近い細胞内システムを有し、生化学や分子細胞生物学などの分析技術に加えて、遺伝学という強力なアプローチを駆使することが可能な分裂酵母モデル生物を用いて、MAPキナーゼシグナル依存的に制御されるRNA結合蛋白質の生理機能を明らかにすることを目的としたものである。特に、RNA結合蛋白質を介した『細胞増殖と分化』という細胞運命の制御機構を分子レベルで明らかにすることに焦点を当て、本年度は以下のことを明らかにした。 GST pull-down法とLC-MS/MS法、GST pull-down法とDNAマイクロアレイ法を組み合わせた手法により、MAPキナーゼによるリン酸化依存的なRNA結合蛋白質Nrd1のパートナー蛋白質群およびターゲットmRNA群を網羅的に解析した。その結果、RNA結合蛋白質Nrd1はMAPキナーゼによるリン酸化依存的に細胞増殖や分化を制御する蛋白質やmRNAと結合していることを明らかにした。さらに、RNA結合蛋白質とターゲットmRNAとの結合力を測定するために、キャピラリー電気泳動法を応用した新規測定法を開発し、RNA結合蛋白質Rnc1とMAPキナーゼフォスファターゼPmp1 mRNAとの結合定数Kaが4.15×10^6(M^<-1>)であることを証明した(J.Pharm.Biomed.AnaL.;2009)。また、X線結晶構造解析によりRNA結合蛋白質Nrd1の立体構造を解明し、MAPキナーゼによるリン酸化依存的なパートナー蛋白質およびターゲットmRNAとの結合を構造化学的に理解するために、GST融合Nrd1蛋白質を大腸菌体内で発現させ、CBB染色で単一バンドに検出できる精製条件を確立した。この条件で精製した大腸菌発現Nrd1は、酵母発現Nrd1と同様にmRNA結合能を保持しており、機能的構造を保持したNrd1が結晶化できると考えられる。
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