本研究で提案している超小型UV分光器を実現するために必要なデバイスである、高温動作シリコンカーバイド(SiC)pnフォトダイオードの実現に向けて研究を行った。そのようなデバイスを正確に設計するためには高温におけるSiC光吸収係数の温度依存性のデータが必要となるが、SiCについては報告例がほとんどない。そこで本研究では、室温から300℃の範囲でSiCの光吸収係数を測定し、その温度依存性を明らかにした。また、SiCpnフォトダイオードの高温動作を目指し、デバイスの作製と600℃の高温までの電気的特性の評価を行った。 光吸収係数の測定では、温度上昇とともに光吸収係数の波長分散は長波長側へシフトし、ある波長に着目すると光吸収係数が増大するという結果が得られた。間接遷移型半導体であるSiCの光吸収はフォノンを介した遷移であるため、この結果は温度上昇によるバンドギャップの減少とフォノン数の増大によるものだと考えた。それを考慮に入れて理論式とフィッティングを行うと、測定値とよく一致する結果が得られ、温度変化によるバンドギャップの変化とフォノン数の変化を合わせたモデルを用いることで、実験結果を定性的に説明することができた。 高温でのデバイス動作の評価では、室温から600℃の温度範囲では逆方向リーク電流がデバイス周囲長に比例しており、リーク電流の起源はSiCバルク中でのキャリア生成ではなく、メサ側面やメサ周囲におけるキャリア生成であることを見出した。表面パッシベーションの工夫により、リーク電流を約20倍低減することに成功した。さらにデバイスの分光感度特性を測定し、高温500℃におけるSiCpnフォトダイオードの動作を実証した。 今後、SiCpnフォトダイオード上に熱光学効果型波長可変フィルタを形成することにより提案している分光器を実現可能である。
|