研究課題
ヒトによる家畜化により特殊な進化を遂げたイヌの社会的知性を解明することで、ヒトを含む霊長類の持つ社会的知性の特殊性とその進化をより深く考察することが本研究の目的である。実験室の統制された環境で飼育される動物では検討が困難であった、多様な生育環境が社会的知性の獲得に及ぼす影響を検討するため、実験室環境とは異なる環境で飼育されている動物であるイヌを被験体として実験を行った。本年度は、物体選択課題を用い、イヌにおけるヒトの社会的ジェスチャー認識に関する実験を行いイヌがヒトの動作の物理的特性のみならず、ヒトの信頼性という社会的特性をも認識しているのかを検討した。研究結果から、イヌは単にヒトのジェスチャーに盲目的に従うのではなく、自身の経験に基づいて柔軟にジェスチャーを手がかりとして利用していることが示された。つまりイヌはヒトのジェスチャーという物理的特性に非常に敏感であるのみならず、ヒトの行動からその人物の信頼性という社会的特性を認識し、その人物の行動に基づいて信頼性を変容させ、それに基づいてイヌ自身の行動を柔軟に変えている可能性が示唆された。イヌがヒトの子どものように他者の社会的特性を行動から認識していることを示した研究はこれまでほとんど報告されておらず、本研究に大きな成果と言える。またイヌにおける個体経験の違いの効果を調べるため、日本とは生育環境が異なるドイツとの比較研究を行った。平成23年度夏には再度ドイツにおける調査を予定している。上記の研究活動の成果は、国内学会で2度、国際学会で2度発表した。現在、英語論文を執筆中である。
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