本年度では、ヒトiPS細胞からの効率的且つ拡張的な心筋への分化誘導法及び、心筋細胞の精製法の検討を行った。まず既に論文で報告されている方法を利用して、胚様体を作らずに、ヒトiPS細胞にActivinA及びBMP4を添加することで分化誘導させる方法を試みたところ、12 well plateのスケールでは拍動する心筋細胞を得ることができたが、6 well plate以上のサイズでは拍動する心筋細胞が得られず、スケールアップすることができなかった。他にもアスコルビン酸やBIOなどの化合物を用いて分化誘導を試してみたが、それも効果的に拍動する心筋細胞が得られなかった。そこで私は、ヒトiPS細胞から胚様体を作り、Wnt3a及びDkk1というリコンビナントタンパク質をそれぞれ一定期間処理することで、効果的に拍動する心筋細胞を得られる方法を見いだした。この方法は、胚様体を大量に作ることが可能であるため、スケールアップにも対応でき、非常に有効な分化誘導法である。次に精製方法の検討として、非心筋細胞のみを死滅させる培地で一定期間処理することで、効果的に心筋細胞を得ることにも成功した。上で示した分化誘導法と組み合わせることで、10^7上の細胞数スケールで心筋細胞マーカーであるα-ACTININ、NKX2.5及びcardiac TNTの陽性率がそれぞれ、85.3%、77.8%、80.4%の細胞群が得られた。これは非常に意義のある結果であり、これだけの細胞数スケールで高い心筋細胞マーカー陽性率を有することは、心疾患患者へのヒトiPS細胞の臨床応用に向けて大きく前進したと自負している。
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