研究概要 |
本年度では、前年度に確立した分化誘導及び精製法を用いてヒトiPS細胞から大量の心筋細胞を作製し、シート化の検討及び大動物モデルへの移植、評価を行った。シート化に関して、高純度の心筋細胞のみを高密度にUpCell培養皿に播種したところ、シート化しなかった(筋芽細胞や繊維芽細胞ではシート化する)。そこで、得られた心筋細胞数に対し20%程度のヒト上皮繊維芽細胞もしくは間葉系幹細胞(MS)を混合させてUpCell上へ播種したところ、どちらの細胞を用いてもシート化する事ができた。次に、作製したヒトiPS細胞由来心筋細胞シートを大動物モテルとして心筋梗塞モデルブタへ移植し、ヒトiPS細胞由来心筋細胞シートの機能改善効果をエコー、CT、心臓カテーテル、組織染色等で詳細に評価した。梗塞モデルはアミロイドリングを用いて作製し、リング装着後4週間目にシート移植(6cmdish4枚分)を行った。その結果、ますエコーによる新機能評価ではcontrol(sham-oDe(移植なし))群においてsham-ope後8週間でEF,FS,LVDd,LVDsの指標が悪化しているのに対し、hiPSC-CM(ヒトiPS細胞由来心筋細胞シート移植)群ではEF,FS,LVDsが移植後4週、8週で有意に改善していることが確認された。また、移植後8週におけるCT検査でも、hiPSC-CM群においてLVEF,LVEDV,LVESVがcontrol群に比して有意に改善していることが確認された。◎LVEF:50.7±5.4%(hiPSC-CM)versus 40.5±0.7%(control),P=0.03、◎LVEDV:57.1±7.5mL(hiPSC-CM)versus 76.1±4.1mL(control),P=0.01、◎LVESV:28.3±6.0mL(LiPSC-CM)versus 45.3±3.0mL(control).P=0.007 次に、スペックルトラッキングエコー法による移植後4週の心筋の壁運動を調べたところ、control群ではsham-ope直前と4週後でinfarct area,remote area,border areにおいて有意な差は得られなかったが、hiPSC-CM群では移植直前と4週後でborderareaにおいて改善が認められた(10.35±4.17% versus 15.22±1.66%,P=0.0l)。シート移植による不整脈の有無及び、移植前と8週後の心外膜マッピングを調べたところ、シート移植後24時間以内においてシート移植による不整脈の発生は認められず、移植前は梗塞により黒丸部分に電機信号が流れていなかった部位が、移植後8週ではその領域への電気の伝播が確認された。 次に移植後8週の組織染色を行ったところ、HE染色及びマッソントリクローム染色において、シート移植群の方が梗塞領域の縮小が認められた。また、細胞径(PAS染色)、繊維化率(Sorius red染色)、毛細血管密度(vWF染色)を確認すると、シート移植群において有意にこれらの指標が改善していることが認められた。テラトーマ形成に関しては、移植したブタにおいて心臓を含めその他の臓器でもテラトーマ様の腫瘍は認められなかった。しかし、移植後8週において一部ヒトiPS細胞由来心筋細胞を検出することはできたが、その数は移植細胞数と比べると僅かであった。in vivoにおける移植細胞の長期生存は大きな課題であり、現在便用している免疫抑制剤はタクロリムス1種のみであるため、今後はその種類や濃度、併用方法等を検討していく必要がある。また、我々のグループが以前発表した体網を用いる方法を併用することも考えられる。臨床応用へ向け課題はまだまだ残されているが、この1年でブタモデルでヒトiPS細胞由来心筋細胞シートの機能改善効果を示す事ができたことは非常に大きな前進である。
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