従来、ナノ粒子(粒径:100nm以下)を生体に曝露させる際に、ナノ粒子のみならず、マイクロサイズの微粒子も含まれていたことから、ナノ粒子曝露の健康影響評価としては不十分であった。本年度は、まず曝露条件(ナノ粒子のキャラクタリゼーション)に着目し、ナノ粒子の性質・性状の制御を行った。本研究では、金属ナノ粒子を用いて、リン脂質をナノ粒子の表面に吸着させた。これは、環境中のナノ粒子を吸入した際に肺胞に到達し、肺サーファクタントと相互作用することにより、脳や肝臓などに移行するという仮説のもとに、ナノテクノロジーの技術を用いて行った実験系である。また、従来のナノ粒子を検出する際には、電子顕微鏡(TEM)を用いる必要があった。本研究では、このナノ粒子にカルボシアニン系色素を化学結合させたことにより、蛍光顕微鏡によるラージスケールの解析が可能となったため、電子顕微鏡に比べ、より簡敏に検出が可能となった。この蛍光標識したナノ粒子をマウスに尾静脈投与を行い、各臓器へのナノ粒子の蓄積を評価した。その結果、肝臓に大半が蓄積しており、脳内へは微量が移行していた。しかし、腎臓・脾臓・肺などではナノ粒子が検出されなかった。この結果は、電子顕微鏡によっても解析を行っており、同様の結果(肝臓・脳のみ観察)を得ている。この結果は、ナノ粒子が脳へ移行することを世界で初めて実証した結果となり、非常に意義深い。今後、ナノ粒子と脳神経細胞との相互作用を解析していく予定である。
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