研究概要 |
自己に関わる情報をそれとして処理し、自己と他者とを区別するという我々の自己認識能力はどのようなプロセスを経て形成されているのだろうか。この自己認識を形成するひとつの要素であり、「自分が何者であるのか」に関する有形無形の知識の集合体である自己表象は我々の自我形成に大きな役割を果たしており、その認知的特性を明らかにすることは自己認識の成り立ちを理解する上で必要不可欠であると考えられる。本年度はこの自己表象への参照プロセスを脳内神経基盤の観点から検討するために、自己参照課題および他者参照課題を遂行する際の脳活動を脳イメージング手法のひとつであるfMRIによって測定し、この両者を支える脳内神経基盤が互いに異なるかどうかについて検討した。その結果、両者は基本的に共通する脳領域(前頭前野背内側部、後部帯状回など)の活動を示したが、自分自身について「よく考える」ことが求められるような単語が呈示された場合には前頭前野腹内側部が、他者に対して「よく考える」場合には中側頭回がそれぞれ特異的に活動することが示された。本研究は同様の諸研究の中において、自己参照プロセスがある特定の脳領域(前頭前野内側部など)に特に依拠しているのかどうかという問題に関し、個々人が対象に対して判断を行う際の「処理の深さ」に着目し比較検討を行った点において特に新奇な知見を得られたものである。本研究の成果は日本心理学会第74回大会、International Workshop for Young Researchers "Knowing self, knowing others"等で発表された。
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