研究課題/領域番号 |
10J06035
|
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
波多野 寛子 広島大学, 大学院・医歯薬学総合研究科, 特別研究員(DC1)
|
キーワード | 口腔癌 / IFITM1 / 骨形成線維種 / RHAMM / ERK |
研究概要 |
高浸潤能口腔癌ではIFITM1の発現が亢進し、浸潤・転移に重要な役割を果たしていることをこれまでに明らかにした。しかし、審美的に重要な顎顔面の腫瘍では、特に増殖能の制御も重要な課題である。そこで、顎骨を膨隆させ増殖する良性腫瘍、骨形成線維腫に着目した。本腫瘍の発症原因は未だ不明である。同疾患部から不死化細胞株(HCF細胞)を樹立し、高発現遺伝子としてRHAMMを同定した。HCF細胞でRHAMMをノックダウンすると細胞の増殖能が著しく低下した。HCF細胞で各種シグナル伝達経路の検討を行い、HIA添加によりRaf/MEK/ERKリン酸化が亢進し、更にRHAMMがERKの活性化に直接関与すること、RHAMMがEGFRを活性化しシグナル伝達経路を加速することを明らかにした。続いて、RHAMMのノックダウンで細胞周期が停止しRHAMMの発現はM期の紡錘体に局在すること、HA添加でRHAMMが核内のTPX2と複合体を形成しAurora Aリン酸化に関与し細胞分裂を誘導することを明らかにした。更に、正常骨芽細胞にRHAMMを過剰発現させ、細胞の増殖と分化機構の破綻について明らかにした。また、内在性のRHAMMと過剰発現しているRHAMMの作用動態の違いを明らかにした。すなわち、正常細胞でのRHAMMの発現レベルは高くなく合成後細胞膜に局在し細胞膜上でのRHAMMはHAとCD44の結合を促進しシグナル伝達経路を活性化すること、過剰発現時のRHAMMは細胞内に一度プールされ多くは細胞質や核内に局在しERKのリン酸化に直接関与することを明らかにした。実際の症例でも検討を行い、骨形成線維腫症例で特にRHAMMの過剰発現を認め、腫瘍組織中の線維芽細胞様細胞の多くにRHAMMの陽性所見を認めた。 以上から、本研究は顎骨関連腫瘍における病態解明に寄与し、口腔外科学分野の発展に貢献するところが大きい。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
口腔癌の浸潤・転移機構を明らかにし、その制御を目的に研究を行ってきた。倫理・臨床上の問題も多く、IFITM1の臨床応用へは未だ至っていないものの、病態に関する研究を行う過程で、発展的に癌の進展に関わる他の遺伝子を発見し、その機能を解析し、顎骨関連性の他の腫瘍の病因解明に寄与し、非常に有意義な結果を得ている。
|
今後の研究の推進方策 |
顎骨関連性の腫瘍の進展程度は宿主によって異なることから、その免疫環境が非常に重要な役割を果たしていると考えられる。このことから、今後は、病態進展に関わる機構の解明を現在の研究から発展的に行いつつ、一方でこの方面に研究をすすめ、特定の因子による罹患率を統計的に解析し、その因子の病態制御の破綻に至る機構を解明し、一層医療の発展に努めていきたいと考えている。
|