研究課題/領域番号 |
10J06083
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
伊藤 雄樹 東京工業大学, 大学院・理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 赤外分光法 / ラマン分光法 / 分子配向解析 / 有機薄膜 / 表面増強赤外吸収 / 電磁気学 |
研究概要 |
研究期間の二年目にあたる本年度は、「分子集合系についての分光測定の結果」と「集合系を形成する個々の分子の光学的性質」とを理論的に結びつけ、集合系の測定から分子の性質を知るための方法論の確立に取り組んだ。本課題の研究計画書に記したとおり、本研究で最も重要な点は、「固体基板上に作製した有機分子・金属微粒子混合薄膜」の赤外分光測定(SEIRA測定)を通じて、「集合内の個々の分子の性質」を解析することである。したがって、分子集合系と個々の分子の光学的性質を結びつける電磁気理論の確立が、実験結果の適切な解釈には不可欠である。 この理論そのものは一般の分光分析に通じるものであり、昨年度までの本課題への取り組みによって高精度な偏光ラマン分光実験法を確立しているため、理論の有効性を確認するための実験には偏光ラマン分光法を用いた。 理論と実験とを無理なく対応させることを重視し、複雑な系に取り組む前に、理論的扱いが比較的容易なLangmuir-Blodgett(LB)膜を試料に用いた。実験で直接測定できるのは、分子集合系である薄膜からのラマン散乱であり、この散乱強度の測定と解析を通じて、個々の分子の光学的性質の一つである「分子のラマンテンソル」の決定に取り組んだ。 個々の分子の性質と膜中での分子集合平均とを結びつける座標変換と平均操作を詳細に計算した結果、膜中の個々の炭化水素鎖のラマンテンソルを部分的に実験で決定できることを見出した。ラマン分光法による分子配向解析には、一般には「分子のラマンテンソル」が既知であることが必要であり、今回の発見によって、ラマン分光法による構造解析で度々直面する問題を部分的に解消できた。さらに、炭化水素鎖は有機分子に一般に含まれているため、この方法論は今回用いた試料以外にも広く適用できると見込まれる。本研究成果うち、前半は現在論文雑誌に投稿中である。後半は、年度末に参加した日本化学会春季年会にて発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は当初の計画では、主に赤外分光法を用いてSEIRAの機構を調べる予定であった。しかし、補助的な手段として用いたラマン分光法により、予期していなかった重要な発見がもたらされたので、ラマン分光法を分析手段とする研究に時間を割いている。これが原因で当初の予定は変更されているが、上記の「研究実績の概要」で示したとおり、本質的には研究課題の遂行の支障にならないと判断している。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究においても赤外分光法と相補的な関係にあるラマン分光法を主たる分析法とする予定である。これは、研究課題の遂行のためには、当初の計画どおりの方策に従うよりも、現状の方針が好適であると判断されるからである。計画当時の申請者は、自身のラマン分光法についての知識が、現在の水準にまで向上するとは考えていなかった。このため、ラマン分光法の利用を補助手段と捉えて計画を立てた。しかし、本来は本研究課題の遂行には、複数の振動分光法の併用が好都合であるので、当初の予定よりもラマン分光法の比重を大きくして研究を続ける予定である。
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