申請書に記したとおり、本研究の目的は、「分子集合系についての分光測定の結果」と「集合系を形成する個々の分子の光学的性質」とを理論的に結びつけ、集合系の測定から分子の性質を知るための方法論の確立である。研究期間の最終年度である本年度は、これまでの期間に取り組んできた実験と理論の研究成果をまとめ、実試料の分析に広く適用できる定量的な解析法の構築を目指した。 昨年度の実験研究の成果により、直鎖脂肪酸のLangmuir-Blodgett(LB)膜の偏光ラマンスペクトルが非常に高精度に得られるようになったため、この実データを本研究での新規理論を検証するために利用することとした。この実試料は、従来研究により光学的性質が高精度に決定されており、理論の正当性を厳しく検証できる。 試料中の分子の性質を実測データから読み解くための本質的な障害は、「試料に固有のスペクトル」が、光学的干渉によって歪められることにある。この歪みの効果を実データから解析理論で除外できれば、既に確立された標準的な解析法を適用して分子の個々の性質を読み解ける。試料のラマンスペクトルから歪みを除外するには、モデルフリーな解析を可能とするLorentz相反定理の活用が適切であることに着目し、モデル化の困難な散乱現象を取りこぼしなく定量的に表現することができた。これにより、目標としていた定量的解析法の構築に成功した。 これらの実験と理論の両面での工夫により、解析法の構築と実データによる検証を本年度に完遂することができた。この成果は、アメリカ化学会の雑誌「The Journal of Physical Chemistiy A」にて発表した.
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