研究課題
本年度は研究実施計画に沿い、スピン軌道相互作用による相対論的な補正を考慮した第一原理電子状態計算のプログラムを開発した。バンド計算手法はタイトバインディング線形マフィンティン軌道法を採用し、さらに不規則合金系の計算を可能とするためにコヒーレントポテンシャル近似を用いる方法が組み合わされている。この手法を応用し、久保・グリーンウッドの公式を用いてFe-Ni合金の異方性磁気抵抗効果に基づく磁気抵抗比の第一原理的な定量評価を行った。なお、異方性磁気抵抗効果とは強磁性体の磁化の向きに対して、電気伝導度テンソルの対角成分が変化する現象のことを言う。これは相対論的効果が電気伝導に与える影響の一つであり、産業的にもセンサー等への応用が期待されている重要な物理現象である。Fe-Ni合金の異方性磁気抵抗効果の磁気抵抗比の定量的な評価を行った結果、抵抗比のNi濃度依存性は既存の実験結果とその大きさ、および、傾向について概ね一致する計算結果が得られた。さらに磁気抵抗比以外にも元の電気抵抗率に対するスピン軌道相互作用の補正はその定量性を問う上で無視できないことが分かった。これらの結果は強磁性体のスピン伝導について、スピン軌道相互作用の重要性を示すと同時に、信頼性の高い定量評価手法を開発することができたことを示唆している。これは新規材料の物理特性の予測等への応用が期待される。また本研究では、スピントロニクスの応用上非常に重要である高スピン分極材料について、ハーフメタル性が期待されるCo_2MnSiの伝導特性の定量評価を行い、理論的な立場から実用材料の基礎的性質についての提言を行った。
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Journal of Physics : Conference Series
巻: 200 ページ: 012094-1-012094-5
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