研究概要 |
本年度の研究では、密度汎関数法に基づく物質の電子状態の第一原理計算により、電子のスピン軌道相互作用に起因する物理特性・現象である結晶磁気異方性、および、スピンホール効果の物質依存性を明らかにした。具体的には、高磁気異方性が期待されるL10型構造のFePt, CoPt, FePd, MnAl規則合金、および、正方晶Fe-Co合金に着目し、その結晶磁気異方性エネルギーをスピン軌道相互作用に関する二次摂動のエネルギー変化を見積もることによって評価・分析を行った。その結果、FePtやCoPt合金ではPt原子の大きなスピン軌道相互作用によって結晶磁気異方性がもたらされているのに対し、FeCoやMnAl合金ではスピン軌道相互作用は小さいものの結晶磁気異方性の発現に有利なバンド構造を有していることが分かった。ただし、本来は不規則合金であるFe-Co合金では、電子の散乱に基づく寿命を無視できず、それが結晶磁気異方性に重大な影響を与えることが明らかになった。特に、FeCoやMnAl合金の結晶磁気異方性のメカニズムが解明されたことは、将来、希土類・貴金族などの希少元素を用いない新しい磁石材料を理論的に設計するための指針として重要な成果である。さらに、同じスピン軌道相互作用を起源とする非磁性金属のスピンホール効果にも着目し、Pd-Ag、Pd-Pt、Pt-Au合金のスピンホール伝導度、および、電流-スピン流変換効率の指標となるスピンホール角の定量評価を行った。その結果、高濃度合金では内因性機構に基づくスピンホール効果によって高いスピンホール角が期待され、高効率な電流-スピン流変換が期待できることを示した。本研究によって得られた成果は優れた特性を有する磁石材料や電流-スピン流変換材料の開発に大きく貢献するものである。
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