研究概要 |
本研究では,北海道阿寒白糠地域から知床半島および大雪山東側にいたる北海道東部に,連続して分布するヒグマ個体群の遺伝的構造を明らかにするために,1チミン反復を考慮したmtDNA多型解析によるヒグマ個体群のmtDNAハプロタイプ分布パタンの解析,2ヒグマ個体群の遺伝的変異の評価と遺伝的流動の解析,および,3マイクロサテライト多型解析およびmtDNA多型解析によるヒグマの血縁関係解析をおこなった. 1では,一部のハプロタイプについては,メスの異所的な分布が見られ,オスの移動について言及が可能であるが,メスのハプロタイプが混在する地域もあった.2では,マイクロサテライト多型解析により詳細な遺伝的構造が明らかになった.mtDNAおよびマイクロサテライトDNAの構造には両者に通じるものがあった.また,3では,オスが出生地から移動した先で,移動先のメスと繁殖行動をおこなっていることが明らかになった. 明確化された個体群を対象として,遺伝的変異の評価,遺伝的流動および遺伝的分化などを計ることにより,保護・管理が必要なユニット明確化を可能にすると考える. このことは,北海道のヒグマについての,保全遺伝学的研究の先行研究として,個体群の保護管理計画の促進を促すことができると考えられる.また,遺伝的情報から,ヒグマ個体群の適切な保護・管理の計画立案のための有効な情報を得ることができるだろう.そして,単独性で野外調査だけでは明らかにすることが難しいヒグマの生物学的特性の理解の促進が期待できる.
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