1.海洋堆積物中でのアミノ酸の残存メカニズムに対して制約を与えるため、日本海秋田沖で採取された過去約5万年間分の海洋堆積物について、全加水分解性アミノ酸(THAA)の化合物レベル窒素同位体組成(d15N)の深度分布を調べた。同一層準について分析された光合成色素d15Nデータと比較することで、堆積物中微生物由来のアミノ酸の寄与を推定した。1m以深の堆積物中微生物由来アミノ酸の寄与は小さく、古海洋中で生産されて沈降・堆積したアミノ酸が主に保存されていることが示唆された。一方で、過去の海水や海洋堆積物表層の微生物由来のアミノ酸の寄与は大きいことが示された。 2.海洋堆積物中でのアミノ酸の分解メカニズムに対して制約を与えるため、相模トラフ(房総半島沖)で掘削された海洋堆積物コア試料について、THAAおよび間隙水中溶存態アミノ酸(DHAA)に分け、D/L比と化合物レベルd15Nの深度分布を調べた。DHAAのD/L比はTH飴と比較して、アラニンでは高くセリンでは低い値を示すなど異なる値を示し、グラム陽性バクテリアのペプチドグリカンなど、アミノ酸を含む有機物のリサイクルが堆積物中で活発に起きていることが示唆された。DHAAのd15N分布は、貧栄養環境特有の微生物の生理状態を反映している可能性が示唆された。 3.遠洋域海洋堆積物深部での有機物変質および海底下生命圏の代謝を評価するため、南太平洋環流域で掘削された海洋堆積物コア試料について、TH飴のD/L比と化合物レベルd15Nの深度分布を調べた。アミノ酸D/L比からは、バクテリアが重要なバイオマスを占めていることが示された。THAAのd15N分布には、貧栄養環境特有の微生物の生理状態の影響が見られた。 4.以上の結果を総合し、海洋堆積物中でのアミノ酸の生物地球化学的動態について、「堆積物深部では、微生物によって溶存態アミノ酸が活発にリサイクルされ、固相には微生物由来アミノ酸はあまり残存しない」という、新たな描像を提示した。
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