研究課題/領域番号 |
10J06206
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
佐藤 義也 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | フォトニック結晶 / 光共振器 / 強結合共振器 / 動的屈折率変化 / 微弱コヒーレント光 |
研究概要 |
近年、2次元フォトニック結晶において、光の波長程度の微小領域に光を閉じ込める光ナノ共振器が実現されており、極低消費エネルギー光スイッチなどの様々な光デバイスへの応用が期待されている。このような光ナノ共振器を複数個用いて、いわゆる強結合共振器状態(外部環境への散逸より十分高速に複数の共振器間を光が遷移できる状態)を形成し制御できれば、光バッファメモリや光量子バスなどの高度な光機能の実現が期待できる。通常、強結合は十分近接した共振器間でしか生じず柔軟性が低いことが課題であったが、本研究では昨年度までに、適切な条件下で導波路を介することで、離れた共振器間の強結合状態を形成できることを理論的・および実験的に示すことに成功している。ここで用いたのは古典的な強度の光であったが、量子的な状態の光に対しても同様の動的操作が実現できれば、量子情報処理への応用にもつながると期待できる。その第一歩として本年度は単一光子レベルまで強度を減衰させた微弱光を導入し、その状態下での結合共振器の動的制御実験を行った。 まず前年度に作製した試料と同様の構造の試料を作製し、一般の強度(平均光子数数百個)の光パルスを導入したときに、共振器間で光が70psの時間周期で遷移する強結合共振器動作が生じることを確認した。さらに、一方の共振器に制御光パルスを入射することで、共振器間の結合状態を動的に制御できることを確認した。次に単一光子レベルでの実験に向け、超伝導単一光子検出器(SSPD)を用いた時間分解測定を構築した。この測定系を用いて上記と同様の実験を行った結果、一方の共振器への制御光照射のタイミングに応じて他方の共振器からの光子検出数を変調できることを確認した。これは単一光子レベルでも確かに強結合共振器として振る舞いかつその動的制御が可能であることを示しており、より純粋な光量子状態の動的操作につながる成果であると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究計画では3年目に行う予定であった結合共振器の動的制御に、1年目にして(当初計画した方式とは若干違うものの)成功しており、研究計画は大幅に前倒しで進んでいる。本年度は当初計画には存在していなかった単一光子レベルでの動的制御実験にまで成功した。これは単一光子レベルの微弱光の動的な遠隔操作に世界で初めて成功した成果である。さらに、昨年度および本年度の成果を論文にまとめ、幸いにもNature Photonics誌に掲載され、同誌News & Viewsで紹介されたほか、同誌Most downl oaded papers第一位を獲得し、新聞各紙に掲載されるなどの高い注目を集めた。このように、本年度の研究は計画以上の大きな進展が有ったと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
結合共振器の動的制御は大幅に進んでいるが、まだ動的制御に用いているキャリアによる光吸収の影響のために、制御のタイミング次第で、光を減速・停止させる時間が共振器そのものの光保持時間よりも小さく抑えられている場合がある。この課題を解決するためにはキャリアによる光吸収を常に抑える必要ががる。そのための方式を今後模索していく予定である。
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