DIBALHを用いたオキシムの還元的環拡大反応は、医薬及び医薬候補化合物の母核として用いられる芳香族環状第二級アミンを簡便に合成できるため、医薬の短工程かつ効率的な合成を可能とし、創薬における実用的な合成法として期待される。今年度は、新規インドールアルカロイドmersicarpineの全合成研究に取り組み、独創的かつ大量供給可能な合成経路の確立を目的として検討を行った。 Mersicarpineの不斉全合成に先立ち、ラセミ体を用いて合成経路を確立した。研究実施計画に従い、文献既知のヨードインドールからの分子内Mizoroki-Heck反応、分子内Friedel-Craftsアシル化を経て、ラクトンを有する四環性のオキシムへ導いた。これに対して、鍵反応であるDIBALHを用いた還元的環拡大反応を試みたが、種々の条件検討にも関わらず、mersicarpineは得られなかった。その原因としては、鍵反応を最終工程で行うことにより、ラクトンのようなDIBALHに対して反応性の高い官能基が多く、目的の反応が進行しなかったことが考えられたため、新たな合成経路を検討した。すなわち、先に合成した中間体から数工程の変換により、ラクトンを有さない三環性のオキシムを調製した。そのオキシムに対する鍵反応は、速やかに進行し、目的のアゼピンを得ることに成功した。得られたアゼピンは空気に不安定であったため、細心の注意を払い、その後の変換を行うことで、mersicarpineのラセミ全合成を達成した。現在、工程数の短縮と不斉全合成に向けた検討を行っている。
|