発達期や成体の脳における放射線障害のメカニズムの解明を、神経幹細胞を用いてin vitroで行うことを目的とする。マイクロビーム照射によって細胞核もしくは細胞質を狙い撃ちした時のDNA由来・非由来の損傷による、神経幹細胞の特徴である自己増殖能と多分化能への影響を評価する。平成22年4月より、放射線医学総合研究所のマイクロビーム細胞照射装置(以下、SPICE)のマシンタイムが採択された。上半期は、SPICE専用の試料作成について検討を行った。マイクロビーム照射法を用いるためには、マイクロメータレベルでの狙いうちを実現する必要があり、細胞位置情報の決定を細胞に蛍光染色することで実現している。しかし、このような蛍光染色剤の細胞毒性は無視できないため、神経幹細胞に適したその染色濃度および染色時間に関して検討を行った。染色には、一般的に用いられている細胞核染色剤Hoechst33342は非常に強い毒性を示し、細胞質染色剤Cell Tracker Orange(以下、CTO)の方が適していることが分かった。この結果より、CTO染色濃度と染色時間を設定し、SPICE照射実験に必要な撮像パラメータを決定できたことから、細胞の位置抽出するための蛍光画像の取得が可能となった。下半期は、上半期で得られた結果を踏まえて、実際に細胞核への狙い撃ち照射実験を行った。照射後の細胞を固定し、YH2AX抗体を用いた免疫蛍光染色によって細胞核の狙い撃ちが可能であることを確認した。また、マイクロビーム照射実験と並行して、レファレンスとなるX線(200kVp)を用いて照射実験を行った。照射後の細胞の増殖曲線の結果を指標に、マイクロビームによる細胞核への狙い撃ち照射を行う際の照射粒子数の見積もりを立てることができた。今後、荷電粒子と光子による神経幹細胞の生物応答について評価・比較していく。
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