研究課題/領域番号 |
10J06310
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
加藤 哲平 同志社大学, 大学院・神学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | ユダヤ教 / キリスト教 / 聖書 / ヒエロニュムス / ラビ文学 / 教父文学 / 七十人訳聖書 / ウルガータ聖書 |
研究概要 |
1、本年度の目標は、一次資料、二次資料の精読である。そこで報告者は、一次資料精読の一環として平成21年度より継続している、ヒエロニュムスによるウルガータ聖書の序文を、つづけて「翻訳と注解」のかたちで発表した。本年度の作業によって、対象資料をすべて翻訳し、解説をつけることができた。この全訳によって、ほとんど邦訳が出版されていないヒエロニュムスの著作に興味関心を持つ者が、容易に原文へとアクセスすることができるようになり、また解説を参照することで二次資料についての情報を得ることもできるようになったと考える。2、本年度は前年度の成果をまとめ、論文として発表・出版することができた。まず、ヒエロニュムスをはじめとする古代キリスト教教父の研究に関する論文を読んでいく中で、教父研究に対するユダヤ学者たちの積極的な関与が見受けられた。ユダヤ学者たちは、教父の著作に含まれるユダヤ伝承と、ユダヤ教古典が収録する伝承(後代に文書化)とを比較していたのだが、この試みは単にユダヤ学の枠内に留まるものではなく、キリスト教学者たちによる大きな関心・反発を呼び起こすものだった。報告者は教父文学を中心とするユダヤ学者とキリスト教学者の相克を丹念に追跡し、『京都ユダヤ思想』第2号に発表した。3、ヒエロニュムスのウルガータ聖書序文の完訳に伴い、序文の中で繰り返し言及されていた新約聖書における旧約引用の問題に注目した。当時キリスト教徒は旧約聖書を読む場合、ギリシア語訳聖書である七十人訳を読んでいたが、ヒエロニュムスは、新約聖書における旧約引用が七十人訳ではなくヘブライ語原典と文言が一致しているという事実から、キリスト教徒もヘブライ語原典を重視すべきと唱えた。この主張はアウグスティヌスをはじめとする当時の教会から強い反発を呼び起こすことになる。この一連の問題について、報告者は『旧約学研究』第8号に発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では3年目に終了すると予想していた、ウルガータ聖書序文の「翻訳と注解」を本年度の前半に完結することができたので、成果をいち早く論文として発表することができた。また2本の投稿論文が共に査読に合格し、迅速に掲載された。
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今後の研究の推進方策 |
本年度中に発表した論文2本がそれぞれ、1)ヒエロニュムスにまつわる研究史をまとめたもの、2)全体のテーマを浮き彫りにする問題点のさわりを論じたもの、であったので、今後は3)テクストを限定して、テーマを十全に扱っていくことを考える。また得られた成果を博士論文としてまとめていく。
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