研究概要 |
本研究の結果、ベトナム電子電気機器廃棄物(e-waste)処理作業従事者血清中から、対照地域住民に比べて有意に高いポリ塩化ビフェニル(PCBs),およびその代謝物である水酸化PCBs(OH-PCBs)濃度が認められ、e-wasteに由来するPCBs暴露影響が示唆された。また、e-waste処理作業および喫煙習慣により薬物代謝酵素が誘導され、PCBsの代謝が進んでいることが推察された。しかしながら本研究ではダイオキシン類・多環芳香族などは未測定であるため、今後はダイオキシン類や多環芳香族類等の暴露による薬物代謝酵素の誘導とPCBsの代謝動態に関する更なる研究が必要である。本研究で対象としたベトナム人のPCBs,OH-PCBs濃度は、既報の日本や欧米諸国の調査結果と比べると低値だった。このことはこれらの国々に比べ、ベトナムにおけるPCBsの使用量が相対的に少なかったことを反映すると考えられる。 検出された異性体組成のパターンは、E-waste処理地域・対照地域ともにPCBsではCB99, CB105, CB118, CB138, CB153, CB187、OH-PCBsでは4OH-CB107/4'OH-CB108, 4OH-CB146,4OH-CB187, 4'OH-CB101/120が高い割合を占め、既報の調査結果と一致していた。高濃度で検出された異性体はいずれもmeta-位に水酸基が置換した、甲状腺ホルモン類似の構造を示しており、T4類似構造のOH-PCBsが高い割合で残留していることが示された。また、PCBs, OH-PCBsいずれにおいても、e-waste処理地域ではPenta-CBが、対照地域ではOcta-CBが相対的に高割合を占めた。先行研究においても低塩素化PCBsがe-waste処理に伴い蓄積されることが報告されている。したがって、本研究で対象とした対照地域住民とe-waste処理従事者の間でPCBsの異性体組成が異なった要因として、後者におけるe-waste由来の低塩素化PCB曝露が示唆された。 血清中総T3と総PCBs,総OH-PCBs濃度の間に有意な正の関係が示された。また、血清中総FT4と総OH-PCBs濃度の間に有意な正の関係が示され、PCBs, OH0-PCBsが甲状腺ホルモン恒常性をかく乱している可能性が示唆された。
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