研究概要 |
採用1年目において以下6点に関して研究の進展があった。(1)FRETプローブを用いた自発的な細胞遊走における分子活性/集積の可視化。落射型蛍光顕微鏡を用いてヒト繊維肉腫由来HT-1080細胞の細胞遊走過程におけるRhoGTPase,イノシトールリン脂質の活性/集積の空間分布を確認した。(2)細胞形態変化(伸長・収縮)の時空間情報を取得する画像解析アルゴリズムの開発。FRETイメージングより取得したタイムラップスイメージに対して、細胞の形態変化を径時的に追跡する画像解析法を開発した。(3)自己相関解析に基づく細胞形態変化の分類。形態変化の時空間マップの自己相関解析を行い、自発的な細胞遊走過程において様々な規律的なパターンが存在することを確認した。(4)相互相関解析による分子活性と細胞形状変化の時間遅れの定量。分子の活性/集積に対する形態変化の時間遅れを調べるために相互相関解析を行った。特筆すべき結果として、Rac1活性が形態変化比べて数分遅れて上昇するという結果を得た。この結果は、形態変化から上流のRac1活性へのシグナル経路が存在することを示唆している。(4)阻害薬を用いた摂動実験によるシグナル経路の探索。相互相関解析結果より推測されるRac1活性と形態変化の間の隠れたシグナル伝達経路を調べるために、様々な薬剤を使用した摂動実験を行った。その結果2つの重要な知見を得ることができた。1つ目はPI3K阻害薬:LY294002に対するRac1活性の全適応性であり、もう一方はアクチン阻害薬:LatrunculinBに対するRac1活性の持続的な減少である。前者はRac1活性に対する負の制御を、後者は正の制御メカニズムが存在することを示唆している。(6)数値シミュレーションによる数理モデルの同定。阻害薬実験の結果を再現するような数理モデルの探索を行った。その結果、Rac1活性がバッファリング構造を通して形態変化を負に制御する数理モデルを同定した。
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