私は、これまでに運動による脊髄メタロチオネイン-3(MT-3)上昇が筋萎縮性側索硬化症(ALS)の病態改善と関係していることを示した。ALSは、運動ニューロンが特異的に変性し、進行性に全身の筋萎縮をきたす疾患であり、その病態に脊髄中MT-3発現が関与していることが示唆されてきた。MT-3は強力なヒドロキシラジカル除去能を有する抗酸化物質で、神経細胞の保護・維持に重要と考えられている。本年度は、MT-3のALS治療効果を明らかにするために、MT-3発現アデノウイルスを用いてALSモデルマウスに対する治療効果を検討した。MT-3発現アデノウイルスを末梢神経より逆行性に輸送し脊髄前角運動神経細胞に発現させた結果、ALSモデルマウスの寿命および罹患期間を有意に延長した。さらに、MT-3は、病態の進行による腰部脊髄前角運動神経細胞数の減少を抑制した。また、対照群(LacZ発現アデノウイルス)と比較したところ、MT-3によりウイルスによる下肢筋線維の萎縮が抑制された。また、MT-3の構造を基にin silicoにて検討した低分子化合物を用い、神経芽細胞に対するグルタミン酸毒性への保護効果を有する化合物のスクリーニングを行ったが、現在までに十分な保護効果を示す化合物の取得には至っていない。これらの結果から、MT-3が実際にALSモデルマウスに対して、治療効果を有すること、神経保護効果を有すること、加えて筋線維の萎縮に対して保護効果を有する可能性が明らかになった。このように、本年度は、当初の計画通りの成果を上げることができた。
|