本研究の目的はNERICAに存在するアフリカ栽培イネ由来の有用遺伝子およびアジア栽培イネ由来の収量性関連遺伝子の座乗染色体領域を明らかにし、遺伝子の選抜に利用可能なDNAマーカーを作出すること、およびNERICAが潜在的に持つアジア栽培イネ・アフリカ栽培イネ間の雑種不稔遺伝子(不良形質)の座乗位置を決定し、遺伝障壁克服のための方策を検討することである。本年度はNERICAにアジア栽培イネを交雑して作成された雑種集団を用い、複数の形質に関してQTL解析およびQTL領域の詳細な絞り込みを行った。 1)昨年度までにリン酸欠乏圃場条件下における分げつ数の低下を指標とし、リン酸欠乏耐性に関する複数のQTLを検出した。これらのQTLはアフリカ栽培イネに由来する対立遺伝子がリン酸欠乏耐性を増加させる効果があったことから、NERICAが持つアフリカ栽培イネ由来の有用遺伝子の一つであると考えられた。本年度はこれらの結果をまとめ、公表した。 2)また、同様の集団を用いて到穂日数に関するQTL解析を行ったところ、複数のQTLが存在し、そのうちの一つはすでに報告のあるイネの出穂期関連遺伝子の座乗領域に存在することが明らかとなった。そこで本年度は、当該遺伝子の塩基配列解析を行った。その結果、検出したQTL領域に存在する出穂期関連遺伝子において、NERICAが塩基変異を持つことを明らかにした。 3)同様に雑種不稔性に関与する解析を行ったところ、複数のQTLが検出され、QTLの一つは上述のリン酸欠乏耐性に関与するQTLと連鎖していることを明らかにした。 4)さらに日本、フィリピン、アフリカから得られたいもち病菌系を用いてNERICAのいもち病抵抗性に関与する染色体領域の解析を行った。その結果、NERICAのいもち病抵抗性にも、複数の遺伝子が関与していることを明らかにした。
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