本年度は(1)Calderonの式に基づく前処理によって加速された動弾性学の周期多重極法を用いたフォノニック結晶による大規模波動散乱問題の数値解析(2)音場弾性場連成問題における周期多重極法とそのCalderonの式に基づく前処理の開発を行った。(1)フォノニック結晶がストップバンド等の周期構造に起因した特異な性質を持つためには、非周期方向に多層からなる構造である必要である。ここでは、8層からなるNaCl型(塩化ナトリウムイオンと同じ周期構造を持つ)フォノニック結晶による弾性波の散乱問題を取り扱った。問題の自由度が150万を超える大規模問題となったが、現実的な時間で数値解を求めることが可能であった。また、ストップバンド現象を再現することに成功した。(2)フォノニック結晶が周期構造に起因した特異な現象を示すためには、母材と介在物の材料定数が大きく異なる必要がある。このため、母材として流体が用いられることが少なくない。しかしながら、前年度までに開発した周期多重極法でこういった材料による散乱問題を取り扱うことは自然ではない。というのも、流体中では横波は存在し得ないためである。自然な定式化を行うには、母材において音圧がHelmholtz方程式に支配され、介在弾性体において変位がNavier-Cauchyの式に支配される場、すなわち、音場弾性場連成問題とすれば良い。そこで、前年度までに開発したHelmholtz方程式及び動弾性学の周期多重極法を組み合わせ、音場弾性場連成問題に対する周期多重極法、Calderonの式に基づく前処理の開発を行った。応用として、周期的に穴の配置されたタングステン板による音波散乱問題を取り扱った。音波の異常透過現象(穴のサイズに比べ、長い波長の波が透過する現象)を数値的に再現することに成功した。
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