製品の安全性を確保するためになされたカルテルなどの反競争的行為が、正当化されて適法と評価されないかが問題となる。平成22年度においては、(1)母法である米国反トラスト法からの比較法的考察及び(2)我が国独占禁止法それ自体の解釈論の研究を行った。 まず、(1)米国反トラスト法に関しては、Professienal Engineers事件などの連邦最高裁判所の判例が公共の利益(public interest)を考慮することを排斥して、競争を促進する経済的正当化事由に限定していることを示した。問題は競争促進的(procompetitive)とはいかなる場合を指すかということであるが、近時のCalifornia Dental事件が情報の非対称性という市場の失敗(market failure)を是正する取り組みに一定の評価をしていることが注目された。市場の失敗の是正は、機能不全に陥った市場メカニズムを回復させるものとして、自由競争政策を擁護する反トラスト法の目的に合致すると考えられた。さらに、こうした正当化事由を具体的にどのような審査基準で認めていくかについての議論も学説を中心に提起されていることが分かった。これらの成果は、「米国反トラスト法における反競争的行為の正当化」一橋法学10巻2号(2011年)において発表する予定である。 次に、(2)我が国独占禁止法に関しては、再販売価格の拘束における正当化事由について検討した。公正取引委員会審決であるハマナカ株式会社に対する件においては、和光堂事件最高裁判決の説示を踏襲しつつ、競争との関連性を重視していると位置付けた。このような立場は、競争促進的効果と反競争的効果を比較衡量する学説や前述の米国反トラスト法からの比較法に沿うものといえた。この点を中心として2010年10月30日に立教大学で開催された経済法判例研究会で口頭報告を行い、そこでの議論も踏まえて「再販売価格の拘束における正当化事由-ハマナカ株式会社に対する件-公取委審決平成22・6・9」ジュリスト1418号120頁(2011年)として発表した。
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