発達期の動物では片方の眼を遮蔽すると一次視覚野において遮蔽眼の反応性が神経回路の可塑的変化により失われる。この眼優位可塑性と呼ばれる現象には臨界期が存在することが知られており、げっ歯類を用いた研究により臨界期の終了にはミエリン由来阻害因子であるNogoを含むシグナルが関連していることが示唆されている。本研究では発達した両眼視機能やコラム構造を持つ成熟ネコを用いて、ミエリン由来阻害因子の抑制による眼優位可塑性の再現と弱視からの回復、それに関連する様々なレベルでの機能、形態的なメカニズムの解明を目指す。本年度は脱ミエリン化によるミエリン由来阻害因子の抑制を目的とし、Lysolecithinの投与検討を行った。 投与方法として、injectionカニューレによる成熟マウス一次視覚野への単回投与を試みた。Lysolecithinの投与により脱ミエリン化が生じるかを、ミエリン塩基性タンパク、MBPを用いたウエスタンブロット法により検討し、MBPバンドシグナルの減少を観察した。次に、Lysolecithinの効果範囲を抗MBP抗体による免疫染色法によって検討した。Vehicleを注入した部位と比較して、Lysolecithin注入周辺部位において顕著なMBP免疫陽性シグナルの変化は観察されなかった。これらの結果から、前述した条件下においてはLysolecithinによる脱ミエリン化は生じるが、抗MBP免疫染色による効果範囲の特定を行えるほど大きな変化ではないと考え、浸透圧ミニポンプを用いてより多量の薬剤を持続的に注入する方法を試みた。また脱ミエリン化を免疫染色によって可視化するためのツールとして、他のミエリンマーカである、MOG、CNPaseを用いた免疫染色の確立と、条件の最適化を行った。この投与法は現在の所カニューレ周辺組織の損傷が激しく、組織の取り扱いが今後の課題である。さらに現在Lysolecithinの持続投与と片眼遮蔽により、成熟ネコにおける眼優位可塑性の再現を目指し実験を進めている。
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