研究概要 |
本研究の研究対象である金ナノロッドは、近赤外光と呼ばれる生体成分を透過する光を吸収し、熱に変換する特性(フォトサーマル効果)を有する。そのため、生体内に金ナノロッド投与しても、近赤外光のオン、オフで加熱をコントロールする事ができる。 本研究の目的は、2つある。一つは、金ナノロッドを使用して薬物を標的とする癌(腫瘍)により効果的に送達することである。もう一つが、薬物送達後、金ナノロッドのフォトサーマル効果を利用して、残りの癌を治療することである。その方法として、熱に応答する反応であるDiels-Alder反応(DA)部位を介して、薬物と、血中滞留性を向上させるためのPEGを金ナノロッドに修飾させ、近赤外光で薬物放出とフォトサーマル効果方法を考案した。 本年度の報告では、DA部位を持つPEGを修飾した金ナノロッドの作製、近赤外光によるPEGのコントロールリリースと、PEG放出による金ナノロッドの凝集を評価した。DA部位を持つPEGは、チオール基を持つフランと末端マレイミドPEGの間でDiels-Alder反応させ合成した。合成したDA部位を持つPEGを金ナノロッドと撹拌し、DA部位を持つPEG修飾金ナノロッドを作製した。作製は、吸収スペクトル、TEM、ζ電位測定で確認した。次に、作製したDA部位を持つPEG修飾金ナノロッドに近赤外光を照射した。近赤外光照射(500mW,920nm連続波レーザー)で、時間に応じてPEG鎖が金ナノロッドから放出され、PEG鎖放出による金ナノロッドの凝集が確認された。比較対象として、DA部位を持たないPEGで同様の実験を行ったが、有意なPEG鎖の放出と金ナノロッドの凝集は確認されなかった。この事から、DA部位がフォトサーマル効果で反応した結果、PEGが放出されたと考えられる。本年度は薬物修飾金ナノロッドも作製する計画であった。しかし、今回の報告は、近赤外光照射による薬物コントロールリリースシステムという本研究戦略の実現性を示すものであり、時間をかけるに値する重要な研究結果であったと考えている。
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