研究課題/領域番号 |
10J06780
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
山下 秀治 九州大学, 工学研究院, 特別研究員DC2
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キーワード | 金ナノロッド / 近赤外光 / フォトサーマル効果 / コントロールリリース / Diels-Alder反応 |
研究概要 |
本年度は、DA部位を持つPEGを修飾した金ナノロッドを用いた近赤外光によるPEGのコントロールリリースの評価と、薬物としてドキソルビシン(Dox)を修飾した金ナノロッドの作製を評価した。DA部位を持つPEGを修飾した金ナノロッドの作製と、近赤外光照射による金ナノロッドの凝集の評価は前年度に報告した。本年度は、近赤外光照射による金ナノロッドの凝集が、戦略通りフォトサーマル効果の熱に誘起された逆Diels-Alder反応によってPEGが放出されたためか、放出されたPEG鎖を定量することで評価した。結果として近赤外光の照射強度、照射時間に依存したPEG鎖の放出が確認できた。これらの結果は、本システムが狙い通り働いていることを示し、金ナノロッドを用いたコントロールリリースシステムの有用性を示すことができたと考えている。さらに本年度では、薬物修飾金ナノロッドの作製も行った。薬物としてはドキソルビシン(Dox)を用いた。片末端にDoxを修飾したPEGをDA部位を介して金ナノロッドに修飾した。しかし、金ナノロッドへのDoxの修飾量が低く、末端にDoxがあるため金ナノロッドの分散安定性が低下してしまった。そこで、PEGの末端にオリゴグルタミン酸ペプチドを結合させ、オリゴグルタミン酸ペプチド部分にDoxをグラフトさせることで、Doxの修飾量向上と金ナノロッドの分散安定性の向上を試みた。結果として、Doxの修飾量は実験で十分評価できるほど向上し、金ナノロッドの分散安定性は数日間放置しても凝集しないほど向上した。 本年度の計画では、薬物修飾金ナノロッドを用いた動物実験まで行う予定であった。しかし、今回の報告は薬物担持量の向上と、金ナノロッドの分散安定性の向上が達成できたことから、今後の動物実験で問題になると考えられた薬物担持量と分散安定性の問題のブレイクスルーとなる結果を報告できたことから、時間をかけるに値する重要な研究結果であったと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
Dox修飾金ナノロッドの作製が遅れたためである。申請した研究方針の戦略の金ナノロッドでは1粒子辺りのDoxの担持量の向上に限界があった。そこで、Doxの修飾量を向上させるため、新しい設計と金ナノロッドの作製を行ったことが、遅れた原因と考えられる。しかし、新しい設計ではDoxの担持量の向上が確認できたので、今後の研究の足がかりになると期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までに、Doxの担持量と分散安定性の向上が達成できた。そのため、今後は、新しく設計、作製したDox修飾金ナノロッドを用いた細胞実験、動物実験を実施できると考えている。しかし、それと同時に、Doxの金ナノロッドから放出される時間の短縮も課題の一つとなる。本研究におけるDiels-Alder環化物の組み合わせはフランとマレイミドであった。しかし、この組み合わせでは逆Diels-Alder反応が起こる温度が90℃と高い。本研究では、金ナノロッド近傍にDiels-Alder環化物が存在できる分子設計のため、より低温側かつ短い時間での逆Diels-Alder反応を期待したが、反応温度は80℃前後で、有意な変化が確認できた反応時間は近赤外光照射から5分後であった。そのため、本システムにより好ましいDiels-Alder環化物の組み合わせの探索が必要になってくると考えられる。その探索法としては、いくつかのジエン、求ジエン体を候補として選び、NMRを用いてDiels-Alder反応の進行をモニタリングしていく手法が考えられる。
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