本研究は、呼吸器系への高い吸入・沈着性から健康影響が懸念されている大気中の超微小粒子(粒径0.1μm以下の粒子;以降UFPと表記)の捕集ならびに成分分析により、UFPの大気挙動を明らかにするものである。本年度は、日本ならびにドイツの道路近傍、およびタイのたばこ乾燥工場近傍にてUFP観測を行った。観測地点は、UFPの主要な発生源として考えられている自動車排ガスの影響のある道路近傍大気、ならびにバイオマス燃焼を利用した工場の近傍大気をそれぞれ選定した。各地点ではUFPと並行し、わが国において2009年に環境基準として新たに導入されたPM_<2.5>(粒径2.5μm以下である粒子)の捕集も行い、粒子組成および成分濃度の把握を試みた。主要成分(炭素成分、イオン成分)の分析結果より、道路近傍観測ではUFP、PM_<2.5>の両粒径で炭素成分の割合が高く、粒子中の組成比が異なることが明らかとなった。これは今後、大気中の粒子状物質を評価する際に、きちんと粒径を分けて議論する必要があることを示唆している。また、UFP成分中に微量元素(金属成分)が検出され、直接大気中へと排出された人為起源UFP成分を明らかにした。日本、ドイツの粒子組成に関しては、UFPではドイツのイオン成分の割合が高く、PM_<2.5>では日本の炭素成分の割合が高い結果が得られたが、ガソリン・ディーゼル混合率の異なる両国において明確な区別はできず、さらなる定性分析を検討している。一方、タイの観測結果より、バイオマス燃焼の指標成分であるカリウムイオンが両粒径で検出され、UFPにおいても発生源指標成分の推定が可能であると確認できた。また、大気観測だけからではUFPの成長挙動解明が困難なため、実験室内において大気中の光化学反応を模擬したUFP上への成長機構の調査ができる実験系の構築を行った。今後、UFPの二次成長に関する実験を進めていく。
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