研究概要 |
本研究は,自閉性障害児における他者意図操作の発達過程について他者を欺く行為に焦点を当て,解明することを目的としている。本年度では,他者意図を操作する程度の違いにより,隠蔽の欺きと戦略的な欺きという2種類の欺きを,自発性の異なる2種類の課題構造の中で取り上げ,これらの4種類の欺きが可能となる時期を特定することを目的とした。その結果,(1)自閉性障害児群では,言語性精神年齢,言語性IQが欺き行為に影響を与える要因であること,(2)定型発達群では,自発的な欺きが受動的な欺きよりも早期に可能となることに比べ,自閉性障害児群では,言語性精神年齢5歳で,受動的な隠蔽の欺きが可能となること,(3)言語性精神年齢でマッチングした場合には,自閉性障害児が定型発達児よりも欺きが可能である人数が少ないことが明らかとなった。これらのことより,自閉性障害児における他者意図操作の発達は,定型発達児よりも遅れていること,自閉性障害児は自発的に欺き行為を行うことに特に困難さを有することが明らかとなった。また,自閉性障害児における欺き行為と関連する認知機能に関しては,今年度の研究においては言語能力があげられたが,先行研究においてはこの機能のみならず,他者意図理解能力や実行機能能力などが検討されている。しかし,これら関連する機能が欺き行為を行う上でどのように用いられているのかという点に関しては検討がなされていない。したがって,今後は,心理学的指標のみならず,脳神経科学的指標を取り入れ,欺き行為に関連する認知機能モデルを構築することが必要であると考えられた。
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