日本に生息するメダカ(Oryzias latipes)種内には鰭の長さに地理的変異があり、高緯度の集団ほどオスの尻鰭が短い傾向がある。この尻鰭長の緯度間変異は、鰭の伸長プロセスの差異によってもたらされることがわかっている:低緯度のオスでは成長のある時点(体長約15mm)で鰭の伸長率が著しく増加するのに対し、高緯度のオスではそうした顕著な変化が見られない。こうした鰭長の集団間変異は、性ホルモンが関与する一連のシグナル伝達系における集団間の差異を反映していることが示唆される。青森と沖縄の2集団のメダカを共通環境(26℃、14L:10D)で飼育し、稚魚から成魚に至るまでの様々なステージでサンプリングを行い、脂溶性ステロイドを抽出し、テストステロン(Te)およびエストラジオール17β(E2)の濃度を、時間分解蛍光免疫測定法(TR-FIA)を用いて測定した。その結果、メスではホルモン濃度の動態に集団間で明確な差異は見られなかった。一方、体長15mm以上のオスでは、青森より沖縄の個体の方がテストステロン濃度は有意に高く、逆にエストラジオール17β濃度は有意に低かった。エストラジオール濃度に対するテストステロン濃度の比をとると、体長増加に伴うその変化パターンは、鰭条の伸長プロセスの集団間/雌雄間のパターンに非常に一致することが分かった。これらの結果は、テストステロンをエストラジオールに変換する酵素であるアロマターゼの生成量に、特にオスにおいて、集団間で差異がある可能性を示唆している。
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