性的二型、即ち雌雄間での表現型の違いは、近縁種間や集団間でも大きな変異が見られる。にも関わらず、二次性徴形質の進化的変化の遺伝的基盤に関する知見はまだ少ない。本研究は、野生メダカに見られる集団間の二次成長形質の程度の差異、即ち鰭の(1)伸長プロセスおよび(2)求愛行動の頻度を指標とし、QTLマッピングによって二次性徴形質に進化的変化をもたらす候補遺伝子領域を探索することを目的とする。鰭の性的二型はメダカに限らず広い分類群の魚で見られることから、メダカで得られた成果は、他の魚種でも共通の遺伝基盤で鰭の性的二型の多様化が起こるのか否かについて研究していく上での基盤データとなることが期待される。本年度は、F2集団の作出と表現型の測定を行った。 具体的には、鰭の伸長プロセスが遺伝的に異なることが分かっている青森、沖縄の野生集団を用いて、青森♂×沖縄♀および沖縄♂×青森♀の二系統の家系を作出し、それぞれから約200個体のF2集団を得た。(1)得られたF2の稚魚は実験室内の共通環境で個体の成長が追跡できるように1個体ずつ個別に飼育し、成魚に至るまでの成長の各段階でデジカメを用いて写真撮影を行った。得られた画像から、画像解析ソフトを用いて体長および鰭長を測定し、個体の成長に伴う鰭の伸長プロセスのデータを得た。(2)また、最後の撮影が終了したメダカについては交配実験を行い、配偶行動の観察を行った。 オスの場合は、メスへのクイックサークル(求愛円舞)や追いかけの頻度、メスの場合はオスの求愛を受け入れるまでの時間や産卵数などを配偶行動の指標とする。行動観察が終わった個体は、遺伝子型を決定するために体組織の一部をエタノール保存した。今年度に得た表現型のデータと、来年度以降に解析する遺伝子型のデータを用いて、QTL解析ソフトで鰭の伸長プロセスおよび配偶行動の集団間変異に関与する候補遺伝子領域を特定する。
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