単純なかたちをした眼の原基(眼胞)から、成体の完全なかたちの眼を作り上げるには、眼胞の中をいくつかの領域に適切に分け、またそれらの領域が自身の位置に応じて神経網膜や網膜色素上皮(RPE)などの組織を適切に形成するように導く、パターンやプログラムが必須であると考えられる。このような眼の発生に関わるパターンやプログラムの実体を明らかにすることは、眼のそれぞれの組織がいかに成り立つかという問題だけでなく、眼全体の形態形成を明らかにするためにも不可欠である。この問題の解明にあたって本研究では、発生中の眼において時間的にも空間的にも幅広く発現する転写因子Pax6に着目し、その機能解析から、特にRPEの領域やその特徴づけにPax6がどのように関わるのかを詳細に明らかにした。さらにPax6がRPE発生においてこのような複数の機能を担うメカニズムについて解析を進めた。 Pax6は眼の発生段階ごとに発現領域が刻々と変化し、特にRPEでは特徴的な一過的な発現パターンが観察された。Pax6がこのように発生段階ごとに異なる発現パターンを持つことを考慮し、発生段階の早いタイミングから遅いタイミングにかけての各発生段階にあるニワトリ胚の眼にPax6の強制発現実験を行った。その結果、Pax6が眼発生のそれぞれの段階ごとに異なる機能を持ち、それに応じてRPEの領域や特徴がコントロールされ、眼全体の形態形成にも影響を与える可能性が強く示唆された。 Pax6タンパク質の構造は、DNA結合ドメインや転写活性化ドメインなどの数種類のドメインから構成されている。これらのドメインのいずれかの機能を損なわせるように変異させたPax6遺伝子を作製し、これをニワトリ胚の眼に強制発現させた。その結果、RPE形成過程で見られたPax6の複数の機能のそれぞれが、Pax6タンパク質の各ドメインに依存する可能性存示唆する結果が得られた。
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