研究概要 |
本年度は電子状態の高感度検出を実現するために電子一個を検出できるパルスカウントも行えるように装置を改造した。光電子のパルスカウントができる半球型電子分析器を既存の測定チャンバーに設置するための架台を設計し,PYSだけでなく光電子分光(UPS)の測定も行えるようにした。さらに電子増倍管を用いたPYSの広ダイナミックレンジ化のために電子増倍管を増設するための治具を作製した。UPSのテスト測定を行った結果,期待される光電子スペクトルが得られず,装置内の残存磁場により光電子の軌道が変化している可能性がでてきた。また,実素子の電気特性を同時に測定できるような機構を測定チャンバー内に組み込むためにも測定チャンバーを新しく設計する必要があると考えている。今後,電子増倍管を使用した広感度PYS測定のプログラムを構築することと並行して新測定チャンバーの設計を進める予定である。 装置改造を進める傍ら,任意の雰囲気下で測定できる電流検出型PYSの測定機構に関して調べた。非真空下では放出光電子強度は下がるが,ガス種依存性についての詳細な研究はほとんどない。そこで,電流検出型PYSを真空中・大気中・窒素中・アルゴン中・酸素中で測定し,それぞれの雰囲気中における光電子検出強度を比較した。その結果,真空中に比べて常圧下では光電子検出強度が40%以下に低下することがわかり,窒素中では他の雰囲気中とは異なる挙動を示すこともわかった。非真空下での光電子検出の機構には,光電子そのものが検出される場合と電子が吸着して陰イオンとなった気体分子を検出している場合の2つの測定機構に基づいている可能性が見いだされた。この結果を踏まえて電流検出型PYSの測定機構に関する論文を現在執筆中である。
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