研究概要 |
本年度も大きく分けて有機電界効果トランジスタ(OFET)と有機太陽電池(OSC)に関する研究を行った.以下にそれらの結果について簡潔に述べる. (1)3端子容量-電圧測定によるアンビポーラーOFET動作状態におけるチャネル形成過程の観測 我々はソースードレイン間に電池電源を使用してドレイン電圧(V_<DS>)を印加することで,FET動作状態において容量-電圧(C-V)測定を行う手法(3端子容量-電圧測定)を提案している.今年度は本手法を用いて,アンビポーラーOFETのチャネル形成プロセスについて調べた.その結果電子とホールの共存によるチャネル形成や,これまでの2次元的なチャネル形成が生じるというトランジスタの動作モデルでは説明できない現象を見出した. 従来のC-V法ではアンビポーラーモードの蓄積を評価できないため,本手法はチャネル形成過程を調べるための標準的な評価手法になりうる. (2)ケルビンプローブ法によるOSCの内部電界分布評価 ITO基板上にOSCを作製し,表面電位(SP)の形成過程をケルビンプローブによって調べた.興味深いことに,CuPc層のSPは30nmで0.9eVにも達した.さらにC60を積層した場合,バンドベンディングのような変化が現れた.またBCP層は,昨年報告したように巨大表面電位(GSP)が現れている.素子内でもBCPによりGSPが形成され内部電位を0.6eVも変化させていることから,OSCの素子特性に何らかの影響を与えるものと思われる.以上のことから,OSCの動作を理解するためにはGSPやベンディングに加えて,CuPcの特異な電位変化を考慮しなければならないことがわかった.
|
今後の研究の推進方策 |
提案した3端子容量-電圧測定はドレイン電圧を印加して測定を行うことができるため,アンビポーラーモードで駆動する有機電界効果トランジスタ(OFET)のチャネル形成過程を調べる際に有用である.この特長を生かして,今後は発光トランジスタのチャネル形成過程,発光プロセスを調べていく. また有機薄膜太陽電池(OSC)の内部電位分布を調べた結果,バンドベンディングや巨大表面電位(GSP)に加えて,銅フタロシアニンの特異な電位変化等が生じていることがわかった.また光電子収量分光(PYS)測定では,フラーレン/銅フタロシアニン界面にエネルギー準位が存在しているような結果が得られている.この準位はOSCの性能を左右する可能性があるため,高感度なPYS測定を行い準位について詳細に調べる予定である.
|